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大石いずみ masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)で3月6日まで

masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市) 2022年2月19日〜3月6日

大石いずみ

 大石いずみさんは1997年、愛知県生まれ。2020年、京都精華大学芸術学部洋画専攻卒業。

 学生時代の2019年、瀬戸内国際芸術祭2019(香川・高見島)に参加した。京都精華大の教員、学生による「高見島プロジェクト」の一環である。

 現在は、名古屋を拠点に制作している。

大石いずみ

 今回は、 瀬戸内国際芸術祭2019での展示作品と、同じシリーズの新作を中心に発表している。

 メインとなるのは、かつての島民が島の廃屋に残した白黒の銀塩写真を基に油絵具と蜜蠟のレイヤーを重ねた絵画である。

 同芸術祭では、古い空き家の内側にホワイトキューブをつくり、家に積層する過去の時間と現在の時間との対話を試みた。

Keep a record 〜紙のうえの光をわたる〜 2022年

 大石さんの作品は、島民の写真をモチーフにしながら、それを絵画として忠実に写し取るわけではない。

 写真に写っている人物のかつてそこに存在したイメージを安易に流用するのでも、写真が帯びる喪失や死の記憶にそのまま寄りかかるのでもない。

 むしろ、それらを遠ざけながら、触覚的な絵画に作り直しているとでも言えばいいだろうか。

大石いずみ

 木製パネルの上に麻布、和紙を重ねたものがベース。和紙には、瀬戸内海の高見島の廃屋に置き去りになっていた白黒写真のイメージを拡大してプリントしている。

 ここからの制作が非常に迂遠的である。

 蜜蠟を塗って、下層の写真が見えにくくなるような被膜をつくった上で、かろうじて透けて見えるイメージをトレースするように油絵具をのせていく。

 油絵具の上には、さらに蜜蠟の層を塗り、また、その上から絵具を塗る。これを繰り返し、写真のイメージの上に、蜜蠟と油絵具の層を交互に何層も重ねている。

 油絵具は、写真のイメージをただなぞっているわけではない。蜜蝋のレイヤーが重なり、描き進めるほどに写真から距離ができ、つかみどころがなくなる。

 つまり、大石さんにとって、描くとは、下層に埋もれた人物の影を掘り起こすような作業になっている。

大石いずみ

  写真の表象から遠ざかりながら、かつて存在したものにつながろうとしている、ともいえるだろう。

 作品によっては、人物かどうかも定かでないほどに、もともとの人物の情報が喪失されている。

 そうして描いた影のような人物像を囲む空間には、白い絵具の粗い筆触によって、光の粒子を強調して描いている。

 大石さんの絵画では、影と光は常に共存し、複雑に絡み合っている。

 2022年の新作では、血縁関係にある人の写真を基に描いているが、制作過程は同じである。

大石いずみ

 大石さんは、複製芸術によって凋落した一回性のアウラを、写真から絵を描くことで単純に回復しようとしているわけではない。

 むしろ、廃屋に残された古い白黒写真にこびりついたイメージの強度を遠ざけ、あいまいな影と光へと後退させながら触覚的な強度を高めている。

 それは、写真を見た者が写真の指示対象である会ったことのない島民に対して抱く写真イメージとは違うものとして、その人物を提示しようとする試みである。

 大石さんが絵画を描くのは、確かに、記憶からこぼれおちていく高見島の島民の姿を描きとめる作業だが、それはもはや指示対象のシンプルなイメージではない。

 目に見える写真のイメージではない、その人をその人たらしめているものを手探りで求める企てである。

大石いずみ

 大石さんにとって、描くとは、それによって、瞑想のように、対象と相互に深く関わること、いわば、その人に完全につながること、境界がなくなること、同じ宇宙にいると感じることなのかもしれない。

 もう1つのシリーズとして、島の廃屋に残された手紙をテーマにした絵画もある。

 手紙を手紙たらしめているものが、パステル、蜜蝋、オイルパステルで描かれている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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