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荻野僚介 名古屋のSee Saw(シーソー)で8月28日まで

See Saw gallery+hibit(名古屋) 2021年7月3日〜8月28日
夏期休廊|8月8〜17日

荻野僚介 造形言語

 荻野僚介さんは1970年、埼玉県生まれ。明治大学政治経済学部政治学科卒業後に、Bゼミスクーリングシステムを修了した。

 See Sawでは、2016年に個展を開いている。

荻野僚介

 「MOTコレクション ただいま/はじめまして」(2019年、東京都現代美術館)、「ペインティングの現在 –4人の平面作品から–」(2015年、川越市立美術館)、「引込線2013」(2013年、旧所沢市立第2学校給食センター)などに出品。2001年のVOCA展にも選ばれている。

 筆者は、初めて見る画家である。作品の印象としては、とてもスマートで明瞭な絵画ということに尽きる。筆触や階調、絵具のむら、ニュアンスは排除され、明るい色彩、シャープさ、幾何学性が際立っている。

荻野僚介

 色や形のあいまいさがなく、どちらへ行こうかと境界線上で争っていることもない。むしろ、ばっちり決まっている格好のいい絵画である。

 つまり、画面上のそれぞれの要素が包み隠さず鑑賞者に向けられたような断定的な絵画である。

 アクリル絵具の塗りも極めて均質で、筆触を欠いているうえ、マスキングしてコントロールされていることから規格化されている印象さえ与える。

荻野僚介

 作品のタイトルに、印象やイメージ、概念に由来する言葉を付けず、サイズと制作年だけにしているのも、内容に依存していない、自律した作品の性質と関係しているのだろう。

 色と色、形と形がせめぎ合うことはなく、むしろ、色面や形がそこに潔く在るという、その明瞭さの中に、ある張り詰めた緊張感をみなぎらせている。

 手業を感じさせずに、それでもというか、それによって絵画としてとどまること、無駄なもの、意味や内容、象徴性を捨象し、諸要素を切り詰めながら行きすぎないこと、色彩と形をシンプルにしながら絵画を見ることの愉悦を極大化すること。

荻野僚介

 言い換えると、要素を最小化しながら絵画の視覚的な効果を最大化する、そして洗練させるということでもある。

 だから、荻野さんの作品は、ある種の「完璧性」をもっているように見せている絵画である。

 ギャラリーから、荻野さんが制作過程にものすごく時間をかけると聞いたが、それはそうだろうと思えるほど、仕事が丁寧で緻密なのである。

荻野僚介

 画面の美しさから、絵具が何度も塗り重ねられた作業が想像できるし、マスキングして塗られたであろうエッジのキレは感服するほどで、寸分の誤差もないように見える。

 また、異様に細長い矩形など、変形させたキャンバスの形や厚さにも注意が払われ、側面にも丁寧に色が塗られている。

 冴えわたったような色面、テープを貼ったのかと見間違うほどの線や、キャンバスの外枠と内部の線との関係などの形式面、一部に用いられているドリッピングなどもコントロールされ、単なる幾何学的な抽象イメージという印象を凌駕する。

荻野僚介

 諸要素を還元するように切り詰めつめながらも、それが最も楽しめるような現前性を志向しているというべきか、なんとなく片方に振り切れてしまうことがないのである。

 荻野さんの画面では、ある1つの色彩や線、形が支持体の外枠や、ほかの色彩、線、形と緊張感を保っているのだが、その反作用である柔らかさ、軽やかさもそなえていて、両者の絶妙なバランスとして、ぎりぎり成り立っている感じである。

 だから、断定的な絵画には違いないのだが、極端さがなく、あるのは「完璧性」なのである。

荻野僚介

 つまり、色や形、線、配色、配置や角度、カーブ、鋭さも、あるいは、柔らかさ、軽やかさも、考え抜かれ、狂いがないように感じさせてしまうのである。

 例えば、画面が上下に黒と紫に二分された絵画では、その間に極小の三角形の連なりのスペースが挟まれ、精妙に、そこに在るのである。

 例えると、普通なら「隠し味」にしてしまうことを隠さないで、洗練させたやり方で表に出しながら、明瞭に、しかし慎ましく配置している。

荻野僚介

 ドリッピングを使った作品では、それをオールオーバーでなく、部分的に使って、オールオーバーな作品で解消された全体と部分との関係をもう一度、呼び戻している。

 ドリッピングの部分を矩形にしたり、不定形にしたりしているが、驚くことに、絵具を飛び散らせた個々の飛沫さえ、コントロールしている感じがする。

 平面性が強い絵画だが、絵画的な空間性や、視覚的な効果、揺らぎを感じさせる部分もある。

荻野僚介

 側面までも丁寧に塗っていることで、正面から見ると絵画的なイリュージョンになっているものが同時にオブジェともなり、また、隣り合う作品とともに空間的な広がり、関係性も生みだしている。

 hibitでは、旧作を含め、実験的な展示を行っていた。

荻野僚介

 荻野さんの作品では、絵画を構成する諸要素が洗練されたかたちで、潔く、同時に柔らかく、そこにあって、見る物の意識が研ぎ澄まされる。

 それらは自らの絵画空間に新たな統語論を生みだしていくように関係し合う。そのたたずまいは、きっぱりとしていて高潔なほどである。

荻野僚介
荻野僚介

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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