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小川日夏太 Mirror,mirror ギャラリ想(名古屋)で2024年5月30日-6月9日

ギャラリ想(名古屋) 2024年5月30日~6月9日

小川日夏太

 小川日夏太さんは2000年、岐阜県生まれ。2023年に愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科デザイン専攻を卒業したばかりの若手である。

 展覧会歴を見ると、2021年から、愛知や東京でのグループ展を中心に作品を発表している。2022年に、名古屋のSHUMOKU CAFEで個展をしているが、筆者は見ていない。

 個展案内のはがきでは、静物の写真らしきイメージに、引き裂かれた紙がコラージュされているように見えた。同じ印象の人もいたのではないか。そう思って個展会場に向かった。

 だが、実際には、鉛筆を主体に全てを描いていた。支持体は木製パネル。ジェッソで下地を作るが、画面は平滑ではない。

 部分的にモデリングペーストを混ぜて盛り上げ、その描きにくい凹凸面にひたすら鉛筆で描いていくのだ。

 陰影を繊細につけ、リアルな立体感を得る。紙が引き裂かれたような、物質感のある部分はアクリル絵具を使っている。

Mirror,mirror

 画中画を取り入れ、絵画の中に、入れ子構造、額縁(フレーム)、レイヤーを意識的につくり、絵画を自己言及的に捉え返している。

 絵の中に窓、画中画,フレームなどを描き、空間を操作する方法はルネサンス期などの西洋、あるいは日本の絵の歴史の中で実践されてきた。

 小川さんの画中画の多くは、静物画で、一部に風景画もある。これらのイメージは、インターネット上のフリー素材から取られている。それを基に鉛筆で再現し、額縁を含め、丹念に描いていく。

 一方、それを覆い、引き裂かれたような黒色のレイヤー。さらに白色をドリッピングして飛散させ、構造を錯綜させている。

 例えば、画中画として静物(インターネット上の写真のイメージ)が描かれ、その描かれた額縁によって、画中画の内部と外部が分けられる。

 その外部空間が描かれ、さらにその外側の、描かれたフレームによって、それら全てが絵画であることが示され、絵画空間と物理的な三次元空間とが区別される。

 しかし、その額縁も現実のものではなく、全てが描かれた虚構。作品の中には、額縁が三重になっているものもあった。

 それら全てを覆って張り付いたコラージュの紙が引きちぎられたようなものも描かれている。それも虚構のイリュージョンである。このアクリル絵具が、イリュージョンと絵具の物質性、平面性との間のギリギリのところで拮抗しているのも、1つの見せ所である。明確に物質として強調されるのは、白色の飛沫である。

 だまし絵を描きたいわけではないだろう。錯覚させたいわけでも、技術を見せることが狙いでもない。

 小川さんは、静物画、風景画という西洋画ジャンルや、写真と絵画、額縁(フレーム)と内部世界 / 外部世界、イリュージョンと物質性や平面性、地と図の関係、レイヤー、デジタルとアナログなどの、二元的・多元的要素を意識的にインストールし、入り組んだ構造を作っている。

 例えば、画中画の静物画の中の瓶に生けられた花の背景(地)が、いつのまにか、フレームの外から覆うように介入してきた別の黒色のレイヤーにすり替わっていたり、あるいは、その上から覆う黒のレイヤーが基底面から剥がされたように見える部分があったり・・・。

 鉛筆で精緻に再現された静物画や風景画のイリュージョンと、アクリル絵具の層や、白い絵具のドリッピングとの関係も巧妙である。コラージュのように見える黒い絵具の層には、さりげなく直線の刷毛目が付けられている。

 つまり、作品全体をイリュージョニズムとして見せながら、画面の中に、さまざまな要素の錯綜、拮抗する構造をつくっているのだ。

 それは、例えば、精妙で静謐とした静物のイリュージョンと、黒いレイヤーの不穏さ、ジェッソによる飛沫の暴力性との亀裂であり、あるいは、絵具の不定形の曲線と刷毛目の規則的な直線との対比である。

 幾重にも虚構が錯綜したイリュージョンの不思議な静けさの中で、画面の中の無数の拮抗、対立、葛藤、せめぎ合いが、まだ見ぬ絵画の可能性を志向している。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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