PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(名古屋) 2022年11月19日〜12月18日
緒方範人
緒方範人さんは1975年、東京都豊島区生まれ。1998年に渡米し、米国で写真を学んだ。2001年に帰国。2002-2004年に金村修ワークショップに参加した。
G/P gallery(東京)などで個展を開いている。
写真集『RASTERIZER』には「On the Shoreline」と「Datascape_On_the_shoreline」のシリーズを収めている。
緒方さんは東日本大震災後、被災地を訪れ、津波などで壊れた家々を建物完成時の写真と同じプロポーションで撮影した。
これらの作品には、写真を縦横に並べたタイポロジー的作品と、分解された建築イメージを自動演算でモザイクのように展開した作品がある。
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一方、今回展示された写真は、都市の建物が溶けたように歪んだ態様のイメージである。ビルとビルが融合し、建築物が流動化している。
人間は排除され、建築物のみを一定の方法論で撮影した作品が格子状に展示されているので、これもまたタイポロジーだといえる。
ムンクの叫びのように極度にデフォルメされたイメージは何を意味するのか。
イメージそのものはシャープ、艶やかで、手ぶれによる撮影でもない。
聞くところでは、フェーズワンというデンマーク製の超高画素センサーを搭載したカメラを使っているとのことである。
つまり、人間が見ているイメージでなく、デジタルの最先端光学機械が捉えた超鮮明な世界だが、ローリングシャッターによって、画面に歪みが生じているのだ。
ローリングシャッターでは、画像全体を一度に取り込むのでなく、画像の上から下に向かって順番にスキャンするので、撮影対象の記録にかすかな時間差が生まれる。そのため、早い速度で動く被写体を撮影すると、歪みが生じる。
もちろん、ビル群は動いていないが、緒方さんはカメラを動かしたわずかなズレによって、予期せぬ歪みを人為的に生成させているのだ。ジェロ効果と呼ばれる歪んだ画像である。
あえて、高感度センサーで、ものすごくきれいなビル群のイメージを捉えながら、人工的にエラーをつくるようにして、空間を歪ませていると言えばいいだろうか。
なぜ、そんなことをするのか。
真意は聞けていないが、大震災で破壊された建物の姿を精緻に際立たせ、類型化した旧作の流れから考えると、建築物、都市を新たなイメージとして透徹した眼差しで捉え直したタイポロジー的な世界観とは言えるのではないか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)