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2022年4月に愛知県小牧市から名古屋市北区(地下鉄名城公園下車)の名城キャンパスに移転した名古屋造形大学の新校舎に開設されたギャラリーで5月21日〜6月25日、オープニング企画のグループ展が開催されている。
出品者は、登山博文さん、蓮沼昌宏さん、渡辺泰幸さんと、「屋外ギャラリー平面構成チーム」である。
過ぎ去った場所と新たな出会い、時空間を超えた創造がテーマである。
新校舎1階にあるメインの展示場所は、「屋内」と「半屋内 / 半屋外」という2つの大きなエリアで構成され、蓮沼さんの作品と、ドキュメンテーションは、近くの別のホワイトキューブで展示されている。
目玉は、2021年11月に54歳で亡くなった画家、登山博文さんが2010年のあいちトリエンナーレ2010に出品した絵画の大作の再展示である。
12年ぶりの展示となる。登山さんについては、「登山博文「1, 2」 タカ・イシイギャラリー(東京)で 2022年4月23日-5月21日」も参照。
登山博文
登山博文さんは1967年、福岡県生まれ。愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了。
絵画を絵画たらしめる各要素、例えば、線、色彩、形、矩形の枠組みなどを徹底的に分析し、ドローイングから絵画へと至る過程において、絵画の生成とは何かを追究し続けた。
展示された作品は巨大で、「反射光」が401×300センチ、「左と右」が300×553センチ。工業用のアクリルウレタン塗料で描かれている。
会場では、アトリエ倉庫に保管されていた作品を運び込み、再展示する作業の様子が15分ほどの映像として紹介されている。
親交のあったアーティストや、美術館学芸員らも立ち会い、大人数で木枠を再構築してキャンバスを張って壁にかける作業はまさに、この作品の破格のスケールに見合うものである。
この絵画のスケールは、単に抽象表現主義のように巨大な広がりや、そうした絵画空間に、鑑賞者が包み込まれることだけを企図したものではない。
登山さんが意図したのは、「ドローイング」で描くような軽やかなストローク、勢い、ある種の生々しいおおざっぱさを、巨大サイズの「絵画」で再現することであろう。
あたかも画用紙ほどのサイズの紙に、しなやかに、即興的に引いたようなストローク、筆跡、かすれ、絵具の半透明の感じが、縦横数メートルの巨大サイズの「絵画」として呼び戻されているところに最大の魅力がある。
筆者は、登山さんのこれらの絵画を見て、巨人になったガリバーが描いたような印象をもったが、登山さんは、もちろん、制作当時、体が大きくなって、大筆で描いたわけではない。
おそらく、床にキャンバスを張り、自らその中に入って通常サイズの刷毛で描いたのではないかと推察される。
そうして、巨大なストロークが引かれた、あたかもガリバーが描いたような絵画を成立させたわけである。この挑戦の中に、線やストローク、絵具、色彩、形など、絵画の構成要素を探究する問いが含まれている。
蓮沼昌宏
蓮沼昌宏さんは1981年、東京生まれ。2010年、東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了。2015年、「越後妻有アートトリエンナーレ」に参加。名古屋のgallery Nでの個展などで作品を発表している。
作品は、小牧市大草にあった旧キャンパスで撮影した作品を基に描いた絵画である。写真と絵画がともに展示してあるが、単に写真のイメージを絵画に再現したものでないところが独特の変容として表れている。
それは、記憶、ユーモア、物語性、妄想を含んだイメージの変換だが、小牧時代の校舎の再現的なイメージを目指しているわけではないという前提があったとしても、なお伝えきれないものが写真と絵画の双方から立ち現れている。
写真の、塗り直した教室の壁のシミや、校舎の壁に付いた外階段、樹影に囲まれたキャンパスの暗闇などが、異質なイメージによるペインタリーな絵画へと変化している。
渡辺泰幸
渡辺泰幸さんは1969年、岐阜県美濃加茂市生まれ。名古屋造形芸術短期大学専攻科修了。陶を素材に、触れ、音を楽しむことができる「音具」を制作。展示環境に応じたインスタレーションを展開している。
主な展覧会に、「越後妻有アートトリエンナーレ」や、2013年、みのかも文化の森(岐阜県美濃加茂市)での個展、2014年の「世界とつながる本当の方法 みて・きいて・かんじる陶芸」(岐阜県現代陶芸美術館)、2015年の「愛知ノート ー土・風土・記憶ー」(愛知県陶磁美術館)、2021年「ユニバーサル・ミュージアム ―― さわる!“触”の大博覧会」(国立民族学博物館)など。
渡辺さんは、陶による小さな土鈴5000〜6000個をインスタレーションとして、空間に展開している。おびただしい数の小さな土鈴が白い糸で連鎖するように吊るされている光景は壮観であると同時に、繊細な印象を与える。
展示作業は、学生との共同制作の一環として行われた。
土鈴の白が、真新しい白い空間の中で揺らぎのように現れ、白昼夢のような非現実感がある。
校舎の壁の白色に、日本塗料工業会の色見本の中でも明度が上限の混じり気のない白色が使われているとのことで、それが影響しているのだろう。不思議な感覚の中で、土鈴を揺らすと、心地よい小さな音を響かせる。
屋外ギャラリー平面構成チーム
チームは、蜂屋景二さん、伊藤維さん、辻琢磨さん、鈴木光太さんら建築・デザイン系の教員と学生有志によって構成されている。
従来の小牧キャンパスで使われ、廃棄予定だった作業台やスツール、椅子、ベンチなどを、新校舎の新しい空間で構成したインスタレーションである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)