愛知県美術館で2024年1月16日から4月14日まで開催されている「コレクションズ・ラリー 愛知県美術館・愛知県陶磁美術館 共同企画」に、1960年代から、日本の精神風土に根ざした前衛的な作品を制作してきた美術家、ノロ燐さん(1942年生まれ)の作品が3点展示されている。
名古屋市出身。40代で岐阜県高山市に移住し、以後、同地を活動拠点にしている。
ノロ燐さんの作品3点は、2021年度に愛知県美術館に収蔵された。油彩絵画2点と、ミクストメディアの立体で、このうち立体の「胎芽供養堂」は作者寄贈。 いずれも、 ノロ燐さんが20代前半から30代初めの1960-1970年代の作品である。
ノロ燐さんは1942年、名古屋市千種区生まれ。1963年、64年には、読売アンデパンダン展に出品。1965年に岐阜市で開かれたアンデパンダン・アート・フェスティバル(長良川アンパン)にも参加している。
今回の展覧会は、4人の学芸員がそれぞれ独自の視点で立てたテーマによる4つのオムニバス形式の構成になっているが、ノロ燐さんの作品は、女性作家による作品を特集した「うーまんめいど」のセクションに展示された。
立体作品の「胎芽供養堂」は、1973年の作品。木や布など、さまざまな材料を使って、観音扉のように開閉できる仏壇形式の作品である。
作品の扉などに、ノロ燐さんの特徴である押し絵が使われている。羽子板のように、絵柄を部分ごとに分け、綿などを入れて立体感を出す伝統手芸である。
大学病院でホルマリン漬けの胎児を見たノロ燐さんは衝撃を受け、自身が宿した子を失ったトラウマを起点に絵画を描いていた思いを掘り下げ、胎児を弔う気持ちから、この強い情念を宿した作品を制作した。
その後、この作品は、アングラ劇団の舞台美術として、巡業とともに各地を巡った。
他の2点は、1964年の油彩画「胎芽その刻印」と、1966年の油彩画「胎芽とその兇星の寓話」である。胎芽供養堂」より早く、ノロ燐さんが20代前半で描いた。
2010年には、名古屋市内で開かれた「針生一郎が選んだ愛知60年代の現代美術展」に出品。2013年、あいちトリエンナーレ2013の並行企画展として、名古屋の七ツ寺共同スタジオと、ちくさ正文館書店本店で「御空羅供の晩餐 纐纈敏郎&ノロ燐展」を開催している。
2015年には、生命の鎮魂をテーマに、鬼子母神などの題材に絡めて展開した、母性の深層、グロテスクな美意識と民衆信仰、土着的呪術の精神世界が評価され、岐阜県の第8回円空大賞で円空賞を受賞している。