髙田安規子・政子《編み針》2019 年 作家蔵
撮影:長塚秀人
金沢21世紀美術館 「日常のあわい」 4月29日~9月26日
金沢21世紀美術館で2021年4月29日~9月26日、「日常のあわい」展が開かれる。新型コロナウイルス感染症が流行し、収束の兆しが見えない中、改めて「日常」への繊細な感覚を大切にしながら制作する作家を紹介するグループ展。
出品するのは7組。青木陵子+伊藤存、岩崎貴宏、小森はるか+瀬尾夏美、小山田徹+小山田香月、下道基行、髙田安規子・政子、竹村京。
本展では、私たちが意識せざるをえなくなった「日常」を今一度見つめ直す。
日常とは何なのか。当たり前に繰り返される営みも、人によって、家族によって異なる日常が紡がれている。
意識しないと見過ごしてしまう生活の中のささやかな創造行為
に着目した作品や、突然の喪失や災害に向き合う心の小さな動きを捉えた作品、形を変えて続く日常をあらわにする作品‥。
いずれの作品からも、日常と非日常のあわいにある「現在」が浮かび上がる。
料金など
[日付指定入場制]
一般:1,200円(1,000円)
大学生:800円(600円)
小中高生:400円(300円)
65歳以上の方:1,000円
※日付指定のWEBチケットの前売販売は2021年4月1日(木)10:00から
※( )内は団体料金(20名以上)およびWEBチケット料金
※当日観覧券販売は閉場の30分前まで
※本観覧券で入場当日に限り、同時開催中の「コレクション展 スケールス」(〜5月9日)、「コレクション展1 Inner Cosmology」(5月29日~11月3日)にも入場できる。
展覧会の特徴
◆「日常」と「非日常」のあわいにある「現在」を見つめる
新型コロナウイルス感染症の世界的流行や、地震や台風などの自然災害をはじめ、さまざまな出来事によって、慣れ親しんだ暮らしや風景は刻々と姿を変えている。
変容する日々においても変わらずに発揮される人々の創造性や、変化の渦中で揺れ動く心の機微、受け継がれていくものを捉えた作品を通じて、「日常」と「非日常」のあわいにある「現在」を見つめ直す。
◆7組11人の日本人作家を一部屋一作家・ユニットごとに紹介
青木陵子+伊藤存、岩崎貴宏、小森はるか+瀬尾夏美、小山田徹+小山田香月、下道基行、髙田安規子・政子、竹村京という7組11人の日本人作家による作品を紹介する。
大小さまざまな展示室を舞台に、1部屋1作家・ユニットごとに展示を構成。それぞれの魅力を存分に見ることができる。
異なる作家同士の緩やかなつながりも見どころとなる。
◆若手から中堅、ベテランまで、個々の日常を多様なメディアで表現
1980年代生まれの若手から、1970年代生まれの中堅、1960年代生まれのベテラン作家までが参加する。
各作家は、個々の日常や誰にでも起こる出来事を、写真や映像、彫刻、ドローイング、刺繍、絵や言葉など、多様なメディアで表現している。
大都市だけでなく、国内のさまざまな地域を拠点とする作家の営みからは、日々の暮らしと創作行為が密接につながっていることがわかる。
出品作家
青木陵子+伊藤存
青木(1973年、兵庫県生まれ)は主に動植物をモチーフとした複数のドローイングを組み合わせた作品を、伊藤(1971年、大阪府生まれ)は連鎖するさまざまなイメージを刺繍の線で描いた作品を中心に制作する。
連名での活動の際には、それぞれの作品を緩やかにつなぎ合わせつつ、空間での即興的な造形や人の成長をテーマとしたアニメーションの連作などによるインスタレーション作品を発表。
本展では、2017年から参加しているリボーンアート・フェスティバルでの制作を元に、編み物や園芸など人々の暮らしに根付く「つくる」行為の可能性を引き出す作品を展開する。
岩崎貴宏
1975年、広島県生まれ。歴史的建造物や鉄塔、クレーンなどがもつ現実のスケールを縮小し、質感や強度の異なる素材へと置き換えることで、見る者の認識を揺さぶる作品で知られる。
本展では、「誰が袖図」をモチーフにした新作などを通じて、コロナ禍で変化した日常を示唆すると同時に、壊れた厳島神社の実像と鏡像を檜材により組み上げた《リフレクション・モデル(テセウスの船)》により、変化を受け入れながら続いていく日常の姿を浮かび上がらせる。
小森はるか+瀬尾夏美
映像作家の小森(1989年、静岡県生まれ)と、絵や文章で表現活動をする瀬尾(1988年、東京都生まれ)は、東日本大震災を機にアーティストユニットとしての活動を開始。
陸前高田から仙台へと拠点を移しながら、東北の風景の変化を見つめ、そこに暮らす人々の語りに耳を傾け、それを記録し、伝える作品を制作してきた。
本展では、「震災後、オリンピック前」と「コロナ禍」における東京の若者たちのリアルな声を捉えた映像と、瀬尾の言葉と絵、そしてコロナ禍の年表で構成される作品を発表する。
小山田徹+小山田香月
1961年、鹿児島県生まれ。大学在学中に結成した「ダムタイプ」で1984年から2000年まで活動する傍ら、90年代からは人々が集い、対話し、関係性を築く共有空間を開発してきた。
小山田が重視するのは、集まった人の工夫で、現場にあるものを活用するブリコラージュの手法である。
本展では、小山田が日々、家族とともに実践しているブリコラージュ的活動から、娘の小山田香月とのコラボレーションで生まれた《おとうちゃん弁当》、《巡礼ゴッコ》などを紹介する。
下道基行
1978年、岡山県生まれ。戦争の遺構や津波で流れ着いた巨石、街なかの細い水路や側溝にかける橋のようなものなど、日常の中で埋もれている異質のものに着目し、リサーチを重ね、写真や映像、文章などで発表する。
本展では、義母が手近なものを蓋として代用する行為を追った《ははのふた》や、各家庭の中で欠けているものを、別のもので補っている事象について、中学生にリサーチしてもらった《14歳と凹と凸》を中心に、日常の中で意識されていない異質な風景や、人々による無意識の創造行為を追った作品を展示する。
髙田安規子・政子
ともに1978年、東京都生まれ。双子の姉妹によるアーティストユニット。暮らしの中にある小さな日用品や衣服に、彫りや刺繍といった手を加えることで、スケールの全く異なるモチーフや風景を作り出す作品には、詩的な喚起力が宿っている。
本展では室内に見立てた展示室に作品を配置し、コロナ禍で外出できない閉塞感を暗示しつつも、日常と非日常のあわいにあるグラデーションや、物理的に離れていても外の世界とのつながりを感じさせるような空間を作りだす。
竹村京
1975年、東京都生まれ。傷ついたり壊れたりした日用品を半透明の布に包み、破損した箇所に刺繍を施す「修復シリーズ」や、ドローイングや写真の前面に刺繍された白布を重ね合わせたインスタレーションなど、記憶や風景といった忘れられていくもの、変化していくもの、日用品のように壊れてしまうものを縫うという行為によってとどめることを試みている。
本展では、蛍光色に光るシルク糸を用いた修復シリーズの作品を出品するとともに、期間中に不定期で作品を修復する様子を公開する。