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中谷ゆうこ個展 そのぬくもり ギャラリーラウラ(愛知県日進市)で2024年9月28-10月12日に開催

ギャラリーラウラ(愛知県日進市) 2024年9月28日〜10月12日

中谷ゆうこ

 中谷ゆうこさんは1966年、愛知県出身。赤ちゃんの形象が浮遊するイメージの絵画を描き、2001年、夢広場はるひ絵画ビエンナーレ(愛知県春日町主催、現在は清須市主催)で優秀賞を受賞。2005年、VOCA展にも出品した。

 一貫して色彩は抑えられ、輪郭が溶解して形と空間が一体化したように広がる絵画空間をつくっているが、近年は室内の階段や、ベルギー・ブリュッセルの運河の夜景、サハラ砂漠などの風景なども描くなど、モチーフを変化させてきた。

 近年も、2020、2022、2023年と精力的に個展を開催。2020年の個展は「中谷ゆうこ展 ハートフィールドギャラリー(名古屋)で11月8日まで」、2022年の個展は「中谷ゆうこ展『くうきのてざわり』ハートフィールドギャラリー(名古屋)で4月17日まで」、2023年の個展は「中谷ゆうこ展 ひかりのてざわり ハートフィールドギャラリー(名古屋)で2023年9月7-17日に開催」をそれぞれ参照。

そのぬくもり 2024年

 さまざまな色彩の絵具を使いつつも、藍が主調をなす画面は光と闇がせめぎ合うようなモノトーンに近い印象で、絵画空間の中で形象が現れては消えるような、うつろいゆく世界である。

 以前、感じられたように、具象物としてのモチーフを意識的に描きながら、その形を溶かしてゆく、というのではない。

 輪郭を描いてから、それを柔らかく階調を整えながら、おぼろげな立体感や奥行きをつくっていくというよりは、雲のように動いている無量無辺の世界そのもの、具象物や言葉の概念すらない空間に近づいている。

 だから、赤ちゃんの頭部に見えるイメージは確かにその通りではあるのだが、空間自体が漂い、流れ、変化する状態でしかないともいえる。

 赤ちゃんの顔は、中谷さんがはるひ絵画ビエンナーレで入賞した頃の20年前のモチーフであるが、いわば光や空気、湿度や生気が混ざり合いながら立ち込めている感覚なのだ。

 つまり、形や概念や意味を意識して描いているというよりは、空間に遍満する、見えない粒子の広がり、流れそのものである。

 人間のアタマ、すなわち、自我が捉える名詞的、概念的、モノ的、色彩的、固定的世界、つまり思考と解釈の世界が後退し、むしろ、作家の身体性、感性が一体となったような、広く、どこまでも続く宇宙が現れている。

 その宇宙空間は、流れ、動き、うつろう広がり、生命を生命として成り立たせる生気のようなものなのだろう。

 中谷さんは、見えないが、存在しているものを描くという言い方をしているが、それは、プネウマ、すなわち存在や生命の原理、いのちのエネルギーのようなものなのかもしれない。

 それは、ある意味で自我、思考、理性や論理、制度、規範とは逆の、非理性、非論理、魂、尊厳、自由、つながりに関わるものである。

 つまり、物と物、人と人、生きものも無生物も含めて、すべてのものが分断することなく支え合い、二項対立を乗り越える、言わば、自我と外界、生と死をも超える生命そのものの神秘と原理、その生気の広がりである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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