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中田奏花 / 原田雅子 展 ギャラリー芽楽(名古屋)で2023年8月26日-9月10日に開催

Gallery 芽楽(名古屋) 2023年8月26日〜9月10日

中田奏花 原田雅子

 中田奏花さんは1996年、東京都国立市生まれ。名古屋市在住。愛知県立旭丘高校美術科を経て、​2020年、​愛知県立芸術大学油画専攻卒業。​​同大学院美術研究科博士前期課程油画・版画領域を修了。

 ギャラリー芽楽では2021年、2022年にも個展を開いている

 逆光の中の人物や物をモノクロームで描く若手画家である。向こう側から当たる光があるのに手前に影がなく、背景は白一色で塗られている。浮遊する影そのものを描いたともいえる異質なイメージである。

中田奏花

 一方、原田雅子さんは1966年、埼玉県生まれ。2005年、飛騨国際工芸学園生涯学習課程陶芸コース修了。2017年、愛知県立窯業高校技術専門校製造コース修了。2017-2018年には、岐阜県立多治見工業高校専攻科で学んだ。

 2013年以降、女流陶芸公募展で入選、入賞を重ね、2021年には、第9回菊池ビエンナーレ展で奨励賞を受賞した。

 2022年、岐阜県多治見市のギャラリーヴォイスで開催された「やきものの現在 土から成るかたち-Part XIX」に出品している。 制作拠点は岐阜県瑞浪市。

中田奏花展 ーサーチライトー

 2021年、2022年の個展でも、逆光の人物、体の一部、物を描いた作品を出品した。人物や物の全体が黒くなっていて、肉眼で見たときの光景というより、どちらかと言えば、逆光の中、写真で撮影したときの画像に近い。

中田奏花

 つまり、色彩は全くなく、輪郭を強調しながら面どりをして、それらしく見せながらも、虚構的、抽象的な影の絵である。

 まばゆい光を平滑な白一色で描いた背景もそうした虚構性を高めている。立体感を出しながらも、色彩も細かな描写も欠落したシルエットに近いイメージは、リアリティと分からなさを同居させる狙いなのかもしれない。

 ここでは、見ていることと見えないこと、分かることと分からないことが問われているように思える。私たちが分かったつもりになっていることが、影によって「そうではない」と言われているような、そんなイメージである。

 そもそも、私たちは、自分とは別の存在のことを、そして、自分自身のことさえ、どれだけ分かっているのだろう。理解しえないこと、それ自体を描いているとも言える。

 そこからの展開で、今回の出品作では、白い円盤のようなものが描き加えられている。タイトルにあるように、これはサーチライトの光である。その白い光は、人物を照らし、その姿を明らかにするどころか、白く覆って見えなくしている。

中田奏花

 逆光だから見えないだけではない。光を当てても見えないのである。サーチライトの光も、白い背景と同様、見えないこと、認識できないことを強調するばかりである。

 対象を認識するうえで、視覚は圧倒的に優位だろうが、それ以外の情報もあるだろう。結局、分かりえないのである。

 人物や物は抽象化、記号化され、均質な白い空間から強く浮き出ても、一見、それらしく描かれても、不自然であって、それによって理解しえないことを際立たせるだけだ。

 中田さんの絵画は、演劇に例えると、舞台上で、役の人物と同様の日常的感情を体験することを俳優に求める写実的リアリズムではなく、身体性や言語そのものをあらわにしながら、人間の分からなさを描いた前衛である。

 実際、虚構性の高いアングラと同様、中田さんの絵画は、逆光という特殊な状況下による「それらしさ」を描きつつ、同時に極めて虚構的である。

 その極め付けは、今回現れたサーチライトの光である。光を当てれば、黒い影の部分がリアルに浮かび上がるはずだが、中田さんの絵では、光そのものが円盤のようになって、むしろ、対象を消している。

 イリュージョンでありながら、物質(絵具)でしかないことが、あえて強調されている。視覚芸術でありながら、視覚情報に頼りすぎるなと言っている気もする。想像する力が必要である。

原田雅子陶展 ーflowー

原田雅子

 原田さんの作品は、ギャラリーヴォイスでも見ている。ユニークな形態のおおらかさとともに、整った美しさではなく、どことなく、ぎこちない感じがこの作家の魅力である。

 原田さんは器物も制作する。この不思議な形態は、カップの取っ手が大きくなって垂れ下がったことから発想した形である。

 制作拠点の周囲など身近な環境に豊かな自然があることが影響していて、水や空気を含む大いなる自然に普遍的に感じる「流れ」が主題となっている。

 そうした主題性を真摯に作品に表出させようとしていることがよく分かるのは、優しく、全てを包み込むようにゆったりとしながら、ダイナミズムも感じさせる有機的なフォルムと、表面の流れるような模様である。

原田雅子

 陶彫土を使って、器の取っ手がぼよーんと伸びたように造形され、それがつながっていきながら、このユーモラスな形態は生まれる。この形が器から来ていることは、チューブ状になった先端に開いた大きな穴からも分かる。

 大まかに形態のイメージを描いてから造形するようだが、実際には、作りながら感覚的に形が決まっていくらしい。それもまた現代陶芸ならではである。

 表面は、陶彫土、半磁土、白系の原土、長石などを重ねた断面の重層的模様で覆い、ヤスリかけ、水拭きなどを挟み計4回ほど焼くという。物質が浮き出てくる感じを狙って、作家が丹念に試行錯誤を続けているところである。

 形態と表面に、流れるような気、循環するイメージが現れている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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