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中田ナオト PARTY ギャラリー数寄(愛知県江南市)で2023年7月8-30日に開催

ギャラリー数寄(愛知県江南市) 2023年7月8〜30日

中田ナオト

 中田ナオトさんは1973年、愛知県生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科卒業、多摩美術大学大学院修士課程美術研究科修了。現在は、名古屋芸術大学准教授を務め、東京、愛知を拠点に制作している。

 2020年にギャラリー数寄で個展「プレイランド! P[L/R]AY LAND!」を開いた。2021年には、名古屋・白鳥庭園での「開園30周年記念 観楓会 『景の園』Landschaft(ラントシャフト)」に参加した。

 2022年には、瀬戸市新世紀工芸館(愛知県)の2人展「中田ナオト 松藤孝一」、愛知県陶磁美術館(瀬戸市)の「特別展 ホモ・ファーベルの断片 ―人とものづくりの未来―」、「BIWAKO ビエンナーレ2022」に出品。精力的に活動している。

中田ナオト

 中田さんの作品は、主に土を素材にしたやきものだが、器ではなく、また、現代陶芸のオブジェとも趣を異にする。一部に、そうした抽象的な造形物もあるが、それのみを追究しているわけではない。

 「陶芸」という視点のみで中田さんの作品を見る人は少し戸惑うのではないかとも思う。自由自在に制作するアーティストであるが、同時に、土素材の主張が強くあるから、「陶芸」でもある。実際、これまで開催された美術館などでの展示は、陶芸・工芸系の施設を会場にしたものが多い。

 特徴を挙げるならば、①現実の事物をやきもので再現する擬似性②抽象的なオブジェ性③遊び心とひらめき、ユーモア、言葉遊び、連想、見立て④瓦やタイル、陶器など既製品の「やきもの」、別の素材やメディアのハイブリッド的活用ーーといったところであろうか。

中田ナオト

 個展でも、1人の作家とは思えない多様な作品を展開し、写真、映像や別のメディアも取り入れ、魅力的な展示空間をつくっていくというスタンスは、彼ならではのものである。

 日常にある何気ないものをやきものに置き換えたらどうなるか。連想、ひらめきで、楽しんでみようという雰囲気がベースにある気はする。

 それでいて、大変器用で、個々の作品の完成度が高い。その世界観によって、作品が「もの」を超えて、驚き、意外性、笑い、空想、記憶、物語性をまとっていく。

PARTY

 こういう方法論を普通、陶芸家は取らない。多くの陶芸家は、素材を土に限り、その土素材を起点に造形していくが、彼は、むしろ、陶芸でありながら、その純粋さから進んで離れ、別の要素をくっつけていく。

中田ナオト

 陶芸を核に、置き換え、見立て、空想や連想、記憶、物語による大胆な変容の働きで、物質を超えた出来事へと誘うわけである。

 こうした緩く、広がりのある方向へ進むあり方は、厳格主義からすると異端である。彼の使う言葉「やきこと」は、土を焼いた物、つまり「やきもの」に留まらず、ジャンルや素材にも縛られず、陶を「こと」として表現しようということである。

 日常的な事物、経験、記憶から、自在に思いを広げ、無意識、勝手な連想、誤解、思い付きも含めて、空想的、物語的に展開させる。今回の個展でも、作家自身の「生きること」に関わるユニークな作品が数多く展示されている。

中田ナオト

 髪型をイメージした作品や、イチゴと練乳らしき小品など、さまざまなものが擬似的に提示される。あるいは、2階の広いスペースでは、重量挙げのバーベルらしき作品があるが、その円盤形の重りの部分はホールケーキのようになってイチゴが付いている。

 2階には、滑り台らしき大型の立体もある。普段、子どもたちが滑る部分は、瓦が連なっていて、とても使えそうにない。メガホンかランプか、分からないような作品もある。

 バーベルも、滑り台も、メガホン(ランプ?)も、確かに、鑑賞者にそれらのものを擬似的に再現したものだと思わせるものだが、どこかおかしい。そこから、単に日常の事物を陶に置き換えることだけが目的ではないことが分かる。

中田ナオト

 今回の個展のタイトルは「パーティー」である。パーティーでは、日常でありながら、少しそこからはみ出たワクワク感がある。中田さんの展示も、そうした雰囲気に近い。予期せぬ出合いと言ってもいいかもしれない。

 事実と記憶、空想、誤解、ひねり、ずらし…。ここでは、もう本物、偽物の違いは意味をなさない。機能性もオブジェ性も、具象も抽象も、視覚も触覚も、意味も無意味も、境界が揺らいでくる。

 だが、ここには、確かに土の表現がある。そして、そこには、作者の時代感覚、日々の気づきや発見、空想、そして、この豊かな世界を徹底的に肯定し、かげがえのない日常とともに遊ぼうという思いが織り込まれている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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