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ナカバヤシアリサ個展 「縮図の拡大図」ギャラリーヴァルール(名古屋)で2024年6月18日-7月13日

ギャラリーヴァルール(名古屋) 2024年6月18日〜7月13日

ナカバヤシアリサ

 ナカバヤシアリサさんは1992年、東京都生まれ。2017年、多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。

 Idemitsu Art Award展2022(国立新美術館)、FACE展2023(SOMPO美術館)などのグループ展や、個展で精力的に作品を発表している。2024年10月3日〜12月17日には、東京オペラシティアートギャラリーのproject Nで個展が開催される。

「縮図の拡大図」

 支持体に使っているユポ紙は、強度が強い合成紙で、ポスターなどに使われる。そのツルッとした滑らかな面にアクリル、オイルパステルなどで描いている。

 走るように筆勢のある線、色彩の滲むような広がり、伸びやかな浸潤によって風景や植物が現れる。一見、荒っぽく粗放に見える形や空間の捉え方は的確である。

 とりわけ、この作家の特長は、現実のものとは到底思えない色彩感覚である。「虚構化」された世界には、禍々しいほどの生命力、エネルギー、霊気のようなものが宿っている。

 ここには、現実を題材にしながら、私たちが見ている風景や植物とは異なる世界が立ち現れている。

 あたかも、それは人間の都合で支配され、意味や解釈を与えられた世界を自分の意識レベルによって変換したような世界である。

 とすると、先ほど「虚構化」と書いたが、実は、虚構というわけではなく、一般性、社会性を超えた、ある意識レベルでは、このように捉えられるということかもしれない。

 タイトルの「縮図の拡大図」を、筆者は、人間中心主義で捉えている世界を、意識レベルの変換によって、植物や風景の立場で描くことだと受けとめた。

 人間の側からの自己正当化した眼差しでなく、むしろ全く反対側からの視線である。人間が支配しているという認識世界でなく、すべてのものが対等につながり、関係しあっているという認識世界である。

 だからこそ、ナカバヤシさんの世界は、生命力が、色彩が、線が奔放に、ほとばしっているのではないか。

 言い換えると、人間のアタマの解釈を投影した世界を超える、自我の視野の限界を超える、そんな想像力で描かれている。

 ナカバヤシさんが平滑な支持体を選ぶのも、そのためであろう。滑るような素早いストローク、絵具のにじみは、作家の手によるものでありながら、その生々しさゆえに植物や山、川など自然の自由ないのちの働きのように思える。

 そう考えると、ナカバヤシさんは、虚構どころか、すべての生命が生きる自由を謳歌する宇宙法則、ありのままの世界を捉えているのだともいえる。

 平滑な支持体の上を奔放に走る線、色彩の広がり、奇抜な色彩は、自然が、あらゆる生命が、生きる尊厳、自由を希求することのメタファーなのだ。

 そして、それは作家自身の姿の投影でもある。私たち鑑賞者も、作品の中に自分を投影することができるだろう。

 これは、いわば仏教の他力の視線を想起させるものだ。人間は自己中心、自我の眼差しで世界を捉える。そこに人間の限界がある。

 科学文明の進展によって、自分を超えた見えない力を信じなくなった人間は自然や風景を我がものにできるという傲慢さを持っている。

 だが、ナカバヤシさんは、自分の意識レベルを相手側の自然や風景から見える景色に変換しているような気がする。

 人間の眼差しでは、外界(自然)を、外面的な姿や出来事、人間社会のルール、解釈、意味で判断し、自己正当化する。

 社会においては、人間同士が互いを比較し、時に優越感に浸り、また別の時には自我が傷つき、劣等感に苦しむこともあるだろう。

 そうではなく、相手からの視線、自然からの眼差しになることで、あらゆる生命が自由や、いのちを思う存分に働かせること、生きることの尊厳を希求していること、それが傷つけられたときの痛み、悲しみが見えてくる。ナカバヤシさんの絵画世界には、そんな植物、自然への共感がある。

 人間の傲慢な視線からは見えない、隠された姿。自分が反対側の視線になってみることで、はるか遠くから届く小さな徴を大きく拡大するように描いているのではないか。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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