ギャラリーヴァルール(名古屋) 2023年11月21日〜12月16日
長田沙央梨
長田沙央梨さんは1988年、愛知県岡崎市生まれ。2009年、トライデントデザイン専門学校 雑貨クリエイト学科アクセサリーデザイン専攻卒業。
2014年、愛知県立芸術大学美術学部美術科彫刻専攻卒業、2016年、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。愛知県を拠点に制作している。愛知県立芸大では、竹内孝和さん、森北伸さんらから学んだ。
2021年の「象られた土、広がる庭」(愛知県立芸術大学サテライトギャラリーSA・KURA)にも参加している。
かげとひかりのむすうのきらめき 2023年
哺乳類、鳥類、魚、昆虫、蜘蛛、その他の生き物をモチーフに陶の立体と絵画を制作している。2022年の ヴァルール 個展レビューでも書いたが、長田さんの創作の姿勢はとてもしなやかで、そして自然体である。
1980年代から90年代に現代陶芸が現代美術と接近したときと比べても、実に軽やかである。土素材を好みながらも、別の素材も含めて相対的に使いこなすし、前衛性を強調しない。工芸、美術という枠組みにそもそも縛られていない。
美術のジャンルや、それぞれの形式性に対して、実にソフトな付き合い方で、ジャンルを越境するというより、複数性という言い方に相応しく、もっというと、すべてのジャンルが溶け合っている感覚を呼び覚ます。
長田さん自身は、工芸や民藝への関心から陶の具象造形に惹かれた。土の触覚的な気持ちよさ、肉付けするときの自在さ、釉薬による色彩の豊かさなど、加工や着色のしやすさを含めて、感覚的に合うのだろう。
陶の立体(インスタレーション)も絵画も表現は共通していて、雰囲気もそのままつながっている。かわいくて、ユーモラスで、親しみやすい世界。それでいて、多様である。
長田さんのモチーフになっている生き物は、自分が飼育しているとか、身近にいるものではない。以前の取材で聞いたところでは、動物園や図鑑、インターネットから、興味を引く対象を選び、そこから、自分の世界に展開していく。
どこかストーリー性もあって、絵本に出てくるイメージに近い。いわば、チャーミングで、自由な空想の世界である。
それでいて、全く非現実的な世界かといえば、そうでもなく、そのあたりのギリギリのところで、形態と色彩、姿、表情や背景を決め、しっくり来るように創作するセンスが作品の魅力につながっているのだろう。
言い換えると、普段は、近寄れないような、距離感を感じさせる動物界が、すぐ身近にあるような親しみを感じさせるようにデフォルメされている。
動物園や図鑑、インターネット上の生き物の実在感が、温かさ、穏やかさ、優しさ、幸福感のようなものを伴うように空想化されている。
今回は、長田さんから直接話が聞けていないため、具体的な生き物の種名は分からないのだが、基になった生き物の特徴、生息環境などから、遊び心でファンタジーを広げ、イメージと物語性を与えていく方法はこれまでと変わらないだろう。
だからこそ、長田さんの作品では、生き物を単体で作る、あるいは描くのではなく、生息環境も含めて空間的に表現していく。生き物が生きている姿、たたずまい、空間の雰囲気が作品になっている。
筆者がそこに感じるのは、自分のいる人間を中心とした世界から離れた環境にすみながら、生き物たちが人間と変わらず存在するような、平等、対等、融和の雰囲気である。
そこに、長田さんの生き物に対する優しさのようなものを感じる。デフォルメされた生き物たちが、人間と変わらない存在感で、豊かな共同性とともに愛嬌たっぷりに生きている。
それは、温かさの世界といってもいいものである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)