ギャラリーヴァルール(名古屋) 2022年2月8日〜3月5日
長田沙央梨
長田沙央梨さんは1988年、愛知県岡崎市生まれ。2009年、トライデントデザイン専門学校 雑貨クリエイト学科アクセサリーデザイン専攻卒業。
その後、2014年、愛知県立芸術大学美術学部美術科彫刻専攻卒業、2016年、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。愛知県を拠点に制作している。
愛知県立芸大では、竹内孝和さん、森北伸さんらから指導を受けている。
2019年に、gallery Valeurと、ON READING GALLERY(名古屋)で個展を開いている。また、2021年の「象られた土、広がる庭」(愛知県立芸術大学サテライトギャラリーSA・KURA)にも参加した。
生き物をモチーフにした陶の立体と絵画、彫金のアクセサリーを併行して制作しているという点で独特である。
2022年 はるかとおくのほしのたもと gallery Valeur
デフォルメした動物の陶作品と絵画を展示。併せて、動植物をモチーフとしたアクセサリーも出品している。それぞれが独立しながら、全体が心地よい空間になっている。
陶の立体は、木や真鍮など別の素材を組み合わせるなど、素材を相対的に使いこなし、自分の世界を表現している。
その意味で、陶を使いながら、工芸のようにジャンルを狭く捉えたものではなく、むしろ、陶を中心とした立体、絵画をそれぞれに作品として自立させながら、空間を表現している。
陶も絵画も、柔らかな雰囲気でかわいらしく、同時にユーモラスである。
こうした柔らかな発想で陶の立体を制作するスタンスは、筆者が美術記者をしていた1990年代以前の日本では、あまり考えられなかった。
当時の日本では、より陶芸的、抽象的で、土素材の属性に意識的な制作手法がとられていた。ラジカルで、生真面目といっていい作品が多かった。
長田さんの作品は、アート的、具象的で、素材への姿勢が相対的という点では、2021年に岐阜県現代陶芸美術館等で開かれ、奈良美智さんも出品した「Human and Animal 土に吹き込まれた命」 や、同年の岐阜県美術館での「素材転生-Beyond the Material」など最近の動向に合致している。
長田さんによると、愛知県立芸大では、自身の少し年長の世代から、やきものを素材に個性的な彫刻(立体)を制作する人が増えた(2021年の「象られた土、広がる庭」参照)。
長田さんは、陶を素材に使った理由の1つに、工芸や民芸への興味をきっかけに、陶による具象的な立体に可能性を感じたことを挙げている。
また、石や木、鉄など、物質自体の色の印象が強い素材に比べ、釉薬によって色彩が自由になるという点でも、陶は都合のいい素材だった。
そして、何よりも、土を触っているときの心地よさ、肉付けしていく感覚の楽しさ、作品に残る手の痕跡など、触覚的な要素に惹きつけられたようだ。
作品を間近で見ると分かるのだが、長田さんの陶作品は、土の質感と手技の痕跡が最大限に生かされている。
また、奈良美智さんは、絵画から入ってさまざまな素材を使うようになった。森北伸さんは、立体から入って、絵画に展開している。
今は、そうした自在な取り組みによって表現の可能性を広げることも珍しくなくなっているが、長田さんも、ジャンルを自由に行き来している。
大学の専攻は彫刻だが、それ以前から制作しているアクセサリー、陶作品を作るようになった後で新たに始めた絵画を含め、横断的に制作している。
実際に制作するモチーフは、犬や猫など身近にいる動物ではなく、動物園や図鑑、インターネットから選んだ生き物を基に、独自に形や色彩を変えている。
例えば、今回出品されたカメの陶作品は、アルダブラゾウガメという世界最大級のリクガメがモデル。
人間より長生きで、150年間生きるという特徴から、会話もできるのではないかという妄想を抱き、イメージをつくった。
遠い土地にすむ生き物たちに自由に想像力を働かせながら形と色を決める。立体では、木などの素材も取り入れ、情景を含めて作品化している。
絵画は、当初はアクリルで描き、最近は、油絵具を使っている。イメージは、陶作品と同様、愛らしく、同時におかしみがある。
展示空間にいると、ほんわかした気持ちになる。愛嬌のある動物のたたずまいや、形の面白さ、色彩の温かさによって、空間を気持ちの良い雰囲気が満たしてくれるからだ。
こうした楽しげな感覚が空間に広がっていく展示は、作品のボリューム感と空間性があって、初めて実現できるものだろう。
先鋭的な表現ではないが、幅広く親しまれるものとして、今後の展開が楽しみである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)