なうふ現代(岐阜市) 2021年10月9日〜11月7日
長澤和仁展
長澤和仁さんは1968年、大阪府生まれ。大阪芸術大学工芸学科卒業。
1995年の国際陶磁器展美濃の審査員特別賞、1999年のファエンツァ国際陶芸展金賞などを受賞し、海外でも作品を発表。
2015 年には、「愛知ノート―土・陶・風土・記憶―」(愛知県陶磁美術館)に出品した。この独創的な企画の出品者は、中谷泰、北川民次、東松照明、山田脩二、三代山田常山、長江重和、戸田守宣、長澤和仁、阿曽藍人、栗田宏一、味岡伸太郎、渡辺泰幸、河村陽介(NODE)、田島秀彦、小栗沙弥子である。
「愛知ノート」の図録や、なうふにある過去の作品を見ると、多様な展開をしていることが分かる。
なうふ現代では、継続的に個展を開いている。今回まとまったかたちで作品に触れ、やきものに対する独特の姿勢を見る思いがした。
つまり、意識的にか無意識的にかとにかくラジカルで自由である。それができてしまう自在さから、現代美術寄りの前衛性が垣間見え、作品は幅広く独創的である。
例えば、正面から見ると、多孔質の形態に見える立体(写真上)が壁に掛かっている。円形の穴が多く穿たれているが、横から見ると、薄い陶板を重ねていることが分かる。
エッジは、あえて穴の途中で陶板を裁断したような見せ方で、整然とした美しさを回避し、工業素材のような雰囲気を漂わせている。
今回は、作家への聞き取りができていないので、作品を見た限りでの形式的な解釈となる。
それでも、会場の作品からは、作品群に共通する特徴が確認できた。長澤さんは、土から陶へのプロセスを重視しつつ、コンセプトを重視して制作していると見られる。
2021年 なうふ現代
今回の展示を見ると、平面、あるいは彫刻、壁に配した立体など、素材が陶とはいえ、作品は、純粋美術に近い印象を与えていることが分かる。
作品群は、壁に掛けられたフラットな陶板や、奥行きをもった立体、あるいは、1つずつ赤や緑の台座に置かれた彫刻的な作品に分類され、展示空間自体にも意識が向いている。
それらは、絵画のような平面的な作品も一部にあるが、多くは、陶板を何層にも重ねて立体にしている。
円形や直方体など幾何学的な形態を基本にしながら、陶板が円形や矩形に穿たれているので、陶板が重ねられることで、立体の内部がくり抜かれた構造になっている。
意識的に円形の穴の途中でエッジを裁断した構造になっているので、先にも述べたとおり、大きな陶板を切断した、つまり、工業素材を使っているように見立てている。
陶板をことさら紙か合板にさえ似ているように重ねているのが今回の作品の特徴である。
幾何学的で構築性がありながら、それらが薄い陶板の重なりで出来ていて、土の焼成や釉薬などによって、歪みや土の質感、溶解した印象も強調されているので、壊れやすく、はかない感覚も併せ持つ。
全体に、鑑賞者に媚びるような美観をあえて排除し、むしろ、突き放すような工業的な規格性を備える一方で、陶ならではの温かさもたたえている。
つまり、長澤さんの今回の作品は、とても両義的で、境界的な見え方、存在感を意識している。
言うなれば、純粋美術と工芸、絵画と彫刻、幾何学性と歪み、明瞭さと曖昧さ、工業と手技など、いくつもの両義的な性質を抱えているのである。
とりわけ、重層的な陶板による立体は、レイヤーによって時間の堆積や奥行きの感覚を見る者に意識させる。
全体では、力強い平面性、立体性をもちながら、それが陶によるペラペラな板の重なりで出来ていることで、中間的なあり方、いわば、反オブジェ性、反陶彫性が見て取れる。
そうしたあり方は、例えば、陶土を素材に立体造形を彫刻として追究した辻晉堂や、辻が影響を与えた八木一夫ら走泥社の作品とは趣を異にする。
長澤さんの作品が、泰然と抽象性、象徴性に回収されることがなく、反オブジェ性、反陶彫性をはらむことで、全く異なる存在感を表出させている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)