Gallery 芽楽(名古屋) 2022年6月4〜19日
森井開次
森井開次さんは1979年、滋賀県生まれ。2003年、愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業、2005年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
2012年からギャラリー芽楽で個展を重ねている。2007年には、はるひ美術館(愛知県清須市)で個展を開いた。
加藤真美
加藤真美さんは、愛知県常滑市立陶芸研究所で学んだ。現在は、東海市を拠点に制作しているベテランである。近年は、たたら作りを中心に、一部に手びねりも加えている。
第31回長三賞陶芸展自由部門審査員特別賞(鯉江良二選)、第21回庄六賞茶盌展庄六賞、第44回美濃陶芸展大賞など、数々の受賞歴がある。
2022年 芽楽
森井さんは、描画のプロセス、構造やモチーフを選択しながら、画面にリアクションをしていくような描き方である。だが、そのことが強いテーマ性になっているというわけではなく、むしろ、屈託なく、肩の力を抜いて楽しんでいる感じさえする。
描くことそのものが好きなのであって、何かを表現したいわけではない。
例えば、2015年に愛知県立芸術大学サテライトギャラリー SA・KURAで開いた個展では、画面に額縁(フレーム)を描くということを描画のきっかけにした。
絵画の内容、つまりモチーフや主題、描き方ではなく、描く手順のアイデアによって描くということでは、形式寄りだが、だからと言って、例えば、絵画の形式をテーマとして探究するというのとは、かなり趣が異なる。
むしろ、あるアイデアによってインタラクティブに次々と起こるプロセスが、絵画を成り立たせるスリリングな関係と結果を楽しんでいる感じである。
ある一本の線が引かれ、面がつくられ、色彩が決まっていく反応と関係が、ある種、即興的に連鎖して行われる中で、その継起的な出来事が「これでいい」と思える場所で「絵画」として迎えられる。
そこには、絵画を探究するというガチガチの形式論はなく、心情を全く排除しているわけでもない。それぞれの絵画に託された描くアイデアと率直なイメージに温かい気持ちがのっかていて、気持ちがいい絵画空間になっている。
今回の作品では、漢字の「山」の字を崩した形や、魚のイメージ、幾何学形、不定形、「L」や「U」の字、黄の色面とタッチ、カラフルな粗い筆触など、さまざまな要素が見られるが、それらが絵画のテーマ、モチーフ、内容として求められているわけではない。
それらが絵画を描くためのアイデアにすぎないとしても、というより、アイデアにすぎないからこそ、画面への森井さんの応答が重なっていくことで、線や面、形、色彩、タッチやイメージなど、絵画をつくっていく諸要素が集められ、当初のアイデアなど軽やかに超えて、「絵画」になっていく。
そのアイデアを、プロセスの試行を、自分の興味や気持ちをすべてを総動員して描くことに今、森井さんは愛着を感じている。
モチーフやテーマ、先鋭性や強烈な個性がある作品ではない。しかし、森井さんの絵画に対する信頼と喜び、親しみ、息遣いが感じられる作品である。
一方、加藤真美陶展は「泥細工」というタイトルがつけられている。一般に磁器の作家として知られている加藤さんが今回は、「土物」といわれる陶器も多く出品した。そうした意味での「泥細工」である。
「石物」といわれる磁器は、造形するうえで、土に比べると自由度が下がる。可塑性の程度が落ちるからである。
加藤さんの中では、一方に振り切るのではなく、磁器と陶器を行き来して作ること、そういう素材との付き合い方、感触も大切なのだろう。
磁器は、加藤さんのオリジナルの釉薬である「フロスト釉」の作品である。
きりっとしたシャープな造形と、温かみのある手触り感、マットな落ち着きが共存しているのが特長である。
フロスト釉は、長い年月、土の中にあったローマングラスが化学変化で銀化した部分のような、つやけしの感じを出したくて、加藤さんが考案、調合した釉薬である。
霜が降りたようなテクスチャー、少しざらついた肌理、繊細な色合いの変化が、作品に柔らかさと、しっとりした温もりを与えている。
部分的に、松灰釉や黒い釉薬をかけ、微妙な変化をつけている。花器にしろ皿にしろ、形はダイナミックである。
また、薪窯で焼いた焼き締めの茶碗も迫力満点である。やはり、ガス釜の雑器類とは明らかに違う。凄みがあると言ってもいいだろう。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)