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ishokenの造形 やきものの現在 2022 ギャラリーヴォイス(岐阜県多治見市)で5月8日まで

ishokenの造形

 「ishokenの造形 やきものの現在 2022」が2022年3月20日〜5月8日、岐阜・多治見市文化工房ギャラリーヴォイスで開かれている。

 出品作家は、加藤委さん、酒井智也さん、田中杏治さん、ターニャ ヘルマンさん、馬場康貴さん、春田里美さん、松村淳さんの7人。

 多治見市陶磁器意匠研究所卒業生のその後の活躍、作品の展開を紹介する展覧会である。

加藤委

 60代の実力派から若手までが約30点を展示。意匠研ならではの作品の多様性と問題意識、それぞれの研ぎ澄まされた感性が伝わってくる。

 各作家の個性とともに時代感覚の違いも浮き彫りになって、興味深い。

 4月23日には、アーティストトーク「ishokenの造形」が開催され、出品作家各人が現在に至るまでの軌跡や制作への思いを語った。

加藤委

加藤委

 加藤委さんは1962年、岐阜県多治見市生まれ。1979年に意匠研を卒業。現在は多治見市で制作している。

 1996年に「現代陶芸の若き旗手たち」(愛知県陶磁資料館)、「磁器の表現・90年代の展開」(東京国立近代美術館)に出品。2013年に日本陶磁協会賞、円空大賞を受賞するなど、活躍を続けている。

加藤委

 青白磁による独特の造形は力強さと速度感を併せ持ち、張り詰めたような緊張感をたたえている。青白磁という概念が表現を束縛していないのである。

 自分を掘り下げることが土素材、空間を問い直すことになっているかのように、集中力を高めながら磁土の構築、切断、削ぎなど、即興的なアプローチによって、荒々しくシャープで、あやうさを孕んだ造形に昇華させている。

酒井智也

酒井智也

 酒井智也さんは1989年、愛知県西尾市生まれ。2015年、名古屋芸大卒業。2019年、意匠研卒業。愛知県瀬戸市で活動している。

 2021年、国際陶磁器展美濃銀賞。作品については、2021年、名古屋のGallery 佑で開催された「旅色〜版と陶〜森岡完介 / 酒井智也 二人展」のレビューも参照。

酒井智也

 ろくろを使った回転体を組み合わせ、色彩豊かなオブジェを制作している。過去に見た風景、アニメーション、SF映画などの場面や街並み、メカニックデザインなどが混ざり合い、新しい風景を出現させる。

 その現実とは異なる世界観には、即興的な身体性を介して、ダイレクトに感性、内面、生の実感が反映される。無意識に眠るイメージが意識的に構築され、見る人の記憶と共振する。

田中杏治

田中杏治

 田中杏治さんは1995年、愛知県生まれ。2019年、愛知教育大学現代学芸課程造形文化コース卒業。

 2021年、意匠研を卒業し、多治見市で制作している。薄い口唇の形をした膨大なパーツが増殖しながら、全体が波打ち、うねるようなオブジェを制作している。

田中杏治

 田中さんは、自分の中にある鬱屈した感情、欲望、ネガティブなものをはきだすように造形化していく。

 混沌とした現代の生きづらさ、不安、葛藤、閉塞感を感じながら制作することで自分の内側に目を向け、生きていくため、乗り越えるための作品が蠢くような形態として現れてくるといえるのではないか。

ターニャ ヘルマン

ターニャ ヘルマン

 ターニャ ヘルマンさんは1981年、ロシア生まれ。同国で大学の経済学部を卒業して金融関係の仕事に就いた後、英国ロンドンのセントラル・セント・マーチンズで美術を学んだ。

 東京都内で制作。2020、2021年と2年にわたり、意匠研のセラミックスラボで陶芸を深めている。

ターニャ ヘルマン

 陶芸と紙という2つの素材の間で制作している。紙の繊細で精緻な形、素材感を土、陶へと移し変えていくプロセスで、新たないのちへと変容させる。

 紙の質感と土の性質、焼成によって生まれる表情のニュアンスに、人間生命の流れ、感情の揺らぎ、うつろいや不完全さ、はかなさ、人間を超えるものが現れる。

馬場康貴

馬場康貴

 馬場康貴さんは1991年、長崎県生まれ。2016年、意匠研卒業。2017年はセラミックスラボコースに在籍した。

 2017年、国際陶磁器展美濃銅賞。長崎県波佐見町で制作している。

馬場康貴

 マケットもつくったうえで、躯体を手びねりで制作。それにさまざまな矩形の極小のパーツを貼っていく。極めて細密、こまやかな作品である。

 無機的素材感、幾何学的な構造でありながら、繊細な造形が光と影をまとうことで、土素材ならではの温かみ、凛としたたたずまい、有機的なうごめき、柔らかな動きが現れている。

春田里美

春田里美

 春田里美さんは1971年、三重県生まれ。京都芸術短期大卒業。1994年、意匠研卒業。

 国際陶磁器展美濃、朝日現代クラフト展、長三賞常滑陶業展など数々のコンペで活躍後、子育てで制作を中断。再開後も育児と両立しながら多治見市で制作している。

春田里美

 作品は、鋳込みの器と壁に展開したインスタレーションである。いずれも白地に青色の絵付けをしている。集中しながら細部を描き、離れて全体を見て仕上げる。 

 インスタレーションでは、幾何学的磁器のパーツが壁を這うようにつながり、背景の余白との関係で空間をつくっている。ふぞろいさが温かみを生み、ひょうひょうとした感覚もあって、とてもユニークである。

松村淳

松村淳

 松村淳さんは1986年、千葉県生まれ。2010年、サウスアラバマ大卒業。2015年、意匠研卒業。

 2020年、「青か、白か、—青磁×白磁×青白磁」(茨城県陶芸美術館)出品。2021年、国際陶磁器展美濃・国際陶磁器コンペティション銅賞。埼玉県で制作している。 

松村淳

 生命(身体)として、あるいは精神的な存在としての人間に関心をもち、米国の大学では海洋生物、生物進化などを学んだ。磁土の反作用的な扱いにくさに対して対応することで、新たな進化のかたちを模索している。

 自然界から抽出したような造形は、曲線的でありながらシャープに磨かれ、人造的、未来的である。ガンダム、エヴァンゲリオンなどのアニメやSF映画などサブカルチャーの影響が強く見られ、生物進化と変異、トランスフォーメーションのイメージが感じられる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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