Gallery 芽楽(名古屋) 2024年4月6〜21日
MITOS
MITOSさんは1985年生まれ。2008年、名古屋造形大学美術学科洋画コース卒業。男性の画家である。2021年、清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレで審査員賞(加須屋明子)を受賞している。
2022年1-2月、愛知・清須市はるひ美術館で、「MITOS展 静寂のリズム」を開催した。瀬戸現代美術展 2022 ( 菱野団地各所 / 愛知 )にも参加している。
Gallery 芽楽での2022年の個展「描く呼吸」では、規則性と不規則性を意識した方法論、展示によって、絵画に微かな身体性、自分の存在性のようなものを現出させた。
そのときの展示では、赤い絵画と、縦または横のストライプの絵画を交互に壁面に一定間隔で並べた。
キャンバスのサイズ、形を揃え、描写の方法論も規則的にした上で、絵画のさまざまな形式を変数(不規則)にして空間に反復展開することで、身体の動きとしてのストローク、呼吸という生存の本質のバリエーションによって、絵画の存在感を成り立たせた。
絵画の形式的要素が意識されるとともに、身体性や呼吸による揺らぎが作品に立ち現れる。絵画を、規則的な反復によって、インスタレーションとして配置することで、規則性と不規則性のあわいから、まさにMITOSさんの生命力のようなものが静かに息づく。
作家の生命感が絵画の形式に働きかけるような作品なのである。
絵とリヒト
さて、今回の個展では、一転、写真が展示されている。光を描いた絵画を予想して、会場に赴いた筆者は驚いた。絵画をストイックに制作する作家だと勝手に思い込んでいたが、しばらく前から、写真も並行して制作しているとのことである。
作品は名刺ほどの小さなサイズである。それがギャラリーの壁に等間隔で並んでいる。この展示方法は、2022年個展の絵画のときと基本的に全く同じである。
つまり、同サイズの写真作品が壁に反復連続している。各々が1点の作品であると同時に展示としては、インスタレーションでもある。ただ、作品が小さいので、ある程度、近づかないと見にくいのも確かである。
タイトルにあるLicht(リヒト)はドイツ語で光を意味する。前回の個展から考えると、今回も規則性と不規則性から現れるものが思考されていると推察できた。
作品は、自室からカーテンを閉めた窓に向かって撮影した写真である。カーテンの隙間の程度、カーテン布のひだの具合、撮影の時間帯、天候、陽光や屋外のライトの状況によって、さまざまなイメージが生成される。
また、自然光だけでなく、一部に人工の光を撮影した写真も加えている。それらが、一定の規則性で反復して等間隔で並んでいる。
ここでいう規則性とは、撮影の場所(作家の自宅)や被写体(カーテンを閉めた窓)、写真プリント(縁取り、サイズなど)、展示の仕方(等間隔の反復性)などであり、不規則性とは撮影時間、天候、カーテンの閉じている隙間の具合、カメラ装置と光との関係などであろう。
これらの規則性と不規則性によって、さまざまなイメージのバリエーションができる。作家は「作為のなかの無作為 できてしまったものへの展望」と短いコメントを寄せている。
前回の絵画の個展で、ストロークや呼吸のような身体性の揺らぎ、作家の生存性が絵に現れたとすれば、今回は、世界のはかなさ、繊細さそのものが現前しているとも言える。
そして、その自分の部屋で繰り返し撮影された刹那の時間と光は、撮影者であるMITOSさん自身の存在性に還ってくるようにも思えた。
誰もが想起するのが、ロラン・バルトによる写真論「明るい部屋 写真についての覚書」であろう。実際、みすず書房のこの本の表紙には、MITOSさんの作品のような、カーテンを閉めた窓の写真が掲載され、見事に符号している。
この本では、意図した主題、一般的な関心であるストゥディウムと、撮影者の意図でない偶然性による裂け目、傷、 ストゥディウムをかき乱す個人的な感情、感覚の跳躍としてのプンクトゥムへの言及がある。
今回の作品の狙いもここにあるのだろう。
前回の個展では、描くことに伴う自らの生命感が絵画形式に働きかけることを見る者に意識させたとすれば、今回は、世界のはかなさが回帰する自身の存在のかけがえのなさを感得させるとは言えないだろうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)