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「民藝 MINGEI― 美は暮らしのなかにある」名古屋市美術館で2024年10月5日-12月22日に開催

⺠藝の広がり、今、これからを展望

 名古屋市美術館で2024年10月5日~12月22日、「民藝 MINGEI― 美は暮らしのなかにある」が開催される。

 約100年前に思想家・柳宗悦が唱えた民衆的工芸「民藝」。⽇々の暮らしで使われる器、⾐類、道具などに美を⾒出し、素材や作り⼿に思いを寄せるそのコンセプトは今も、私たちの⽇常を⼼豊かなものにしてくれる。

(上から)竹行李 陸中鳥越(岩手) 1930年代/刺子足袋 羽前庄内(山形) 1940年頃 
いずれも日本民藝館蔵 Photo: Yuki Ogawa

 本展では、美しい民藝の品々約150件を展示し、「衣・食・住」をテーマに民藝についてひも解くとともに、今に続く民藝の産地の作り手の仕事や、⺠藝を取り⼊れた現代のライフスタイルをインスタレーションによって紹介。⺠藝の広がり、今、これからを展望する。

(上から)緑黒釉掛分皿 因幡牛ノ戸(鳥取) 1931年頃/流描皿 河井寬次郎 京都
1927-28年頃/藍鉄絵紅茶器 濱田庄司 栃木 1935年頃/食器棚 イギリス 19世紀
いずれも日本民藝館蔵 Photo: Yuki Ogawa

柳宗悦と民藝運動
 「民藝運動の父」と呼ばれる思想家、柳宗悦(1889-1961年)は東京・麻布生まれ。1910年、雑誌『白樺』の創刊に参加。宗教哲学や西洋美術などに深い関心を持ち、1913年に東京帝国大学哲学科を卒業。その後、朝鮮陶磁、木喰仏の調査研究、収集を進めるなか、無名の職人が作る民衆の日用雑器の美に関心を抱いた。

 1925年には、その価値を人々に紹介しようと「民藝」という新語を作り、濱田庄司や河井寛次郎ら共鳴する仲間たちと民藝運動を創始する。1936年、日本民藝館を開設し、初代館長に就任。以後、ここを拠点に、国内外各地への調査収集の旅、文筆活動や展覧会活動と、活発な運動を展開した。

(左から)角酒瓶 小谷眞三 倉敷(岡山) 1979 年/酒瓶 小谷眞三 倉敷(岡山)
1985 年頃/栓付瓶 メキシコ 20 世紀中頃 いずれも日本民藝館蔵 Photo: Yuki Ogawa

展覧会概要

展覧会名:民藝 MINGEI― 美は暮らしのなかにある MINGEI: The Beauty of Everyday Things
会  期:2024年10月5日(土)-12月22日(日)
会  場:名古屋市美術館  
〒460-0008 名古屋市中区栄2-17-25〔芸術と科学の杜・白川公園内〕
開館時間:9:30–17:00、金曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
休 館 日:月曜日(ただし、10月14日[月・祝]、11月4日[月・休]は開館)、10月15日[火]、11月5日[火]

料  金:一般1,700円(1,500円)/高校・大学生1,000円(800円)/中学生以下無料
宮入圭太アートサコッシュセットチケット 3,200円(数量限定、チケットぴあのみ取扱い) 
※( )内は、前売りまたは20名以上の団体料金 
※いずれも税込

主  催:名古屋市教育委員会・名古屋市美術館、メ~テレ、東映
後  援:名古屋市立小中学校PTA協議会
特別協力:日本民藝館
協  力:静岡市立芹沢銈介美術館、カトーレック、名古屋市交通局
監  修:森谷美保(美術史家)
監修協力:濱田琢司(関西学院大学文学部教授)

見どころ

◆細やかな手仕事が施された刺し子の着物や、素朴な味わいの器など民藝の名品、約150件が集結
 国内のみならず世界各地に目を向け、名も無き作り手たちが生み出す日用品にこそ「美」が宿る、と見出した柳宗悦の眼。

 本展では、柳らが集めた、暮らしのなかにある美しい民藝の品々を中心に紹介し、「民藝ってなんだろう?」という初心者の方々にも親しみやすく紹介する。

スリップウェア鶏文鉢 イギリス 18 世紀後半 日本民藝館蔵 Photo: Yuki Ogawa

 文様の美しさだけでなく機能性も兼ね備えた江戸時代の刺し子の着物や、大胆な模様が印象的なアイヌの衣装、愛らしいイギリスのスリップウェアの皿、フォルムの美しい芯切鋏しんきりばさみ手箒てぼうきといった、日本民藝館(東京・目黒)や静岡市立芹沢銈介美術館などの所蔵する、時代や地域も様々な名品が並ぶ。

◆民藝の「いま、そしてこれから」に迫る展覧会
 柳の亡きあとも、民藝運動は広がりを見せた。日本の各地でも伝統を受け継ぎ、現在でも新たな職人や手仕事の品が誕生している。

 本展では、現在の民藝の作り手に注目し、小鹿田焼(大分)、丹波布(兵庫)、鳥越竹細工(岩手)、八尾和紙(富山)、倉敷ガラス(岡山)の5つの産地を紹介。

 現代作の展示ともに、現地を取材して制作した本展オリジナルの映像により、そこで働く人々の想いや制作風景を伝える。

 また、現在の民藝ブームの先駆者ともいえるテリー・エリス/北村恵子(MOGI Folk Artディレクター)によるインテリアの実例を、現代の生活に溶け込む「これからの民藝スタイル」としてインスタレーションによって展示する。

 つくる人、つなぐ人、つかう人のコミュニケーションで続いていく、これからの民藝にも視点を広げる。

◆展覧会特設ショップもお楽しみに
 本展覧会の特設ショップでは、第Ⅲ章で紹介する東京・高円寺のショップMOGI Folk Artが日本各地の作り手たちと交流して生み出した別注品の数々や、注目の染色家/アーティスト、宮入圭太氏が本展のためにデザインしたグッズ、そして各地のやきものやガラス、布、和紙、木工など、国内外の職人による民藝の品々を多数取り揃える。

 暮らしのなかに取り入れたい民藝ならではの自然の素材や、人の手のぬくもりに、特設ショップでも出会うことができる。

(左から)緑黒釉掛分皿 因幡牛ノ戸(鳥取) 1931年頃/蝋石製薬煎 朝鮮半島 朝鮮時代
19世紀 いずれも日本民藝館蔵 Photo: Yuki Ogawa

展覧会構成

第I 章 1941生活展──柳宗悦によるライフスタイル提案
 1941(昭和16)年、柳宗悦は自身が設立した日本民藝館(東京・目黒)で「生活展」を展開。民藝の品々で室内を装飾し、いまでいうテーブルコーディネートを展示した。暮らしのなかで民藝を活かす手法を提示したモデルルームのような展示は当時珍しく、画期的だった。

日本民藝館「生活展」会場写真 1941年

 第Ⅰ章では「生活展」の再現を試み、実際に出品された作品を中心に、柳が説いた暮らしの美を紹介する。

チャイルズ・スクロールバック・アームチェア イギリス 19 世紀 日本民藝館蔵

第II章 暮らしのなかの民藝── 美しいデザイン
 柳宗悦は、陶磁、染織、木工などあらゆる工芸品のほか、絵画や家具調度など多岐にわたる品々を、日本のみならず朝鮮半島の各所、中国や欧米などへ実際に旅して、収集を重ねた。

 時代も、古くは縄文時代から、柳らが民藝運動を活発化させた昭和にいたるまでと幅広く、とりわけ同時代の、国内各地で作られた手仕事の日常品に着目して、それらを積極的に紹介した。

 第Ⅱ章では民藝の品々を「衣・食・住」に分類し、それぞれに民藝美を見出した柳の視点をひも解く。

II──❶「 衣」を装う

蓑絞一ツ身浴衣 尾張有松・鳴海(愛知)明治時代 19世紀 日本民藝館蔵

波に鶴文夜着 江戸〜明治時代 19世紀 静岡市立芹沢銈介美術館蔵

厚司(アットゥシ) アイヌ(北海道) 19 世紀 静岡市立芹沢銈介美術館蔵

II──❷「 食」を彩る

スリップウェア角皿 イギリス 18 世紀後半-19 世紀後半 日本民藝館蔵 Photo: Yuki Ogawa

網袋(鶏卵入れ) 朝鮮半島 20 世紀初頭 日本民藝館蔵

呉須鉄絵撫子文石皿 瀬戸(愛知)江戸時代 19世紀 日本民藝館蔵

II──❸「 住」を飾る

芯切鋏 京都 1920年代後半-1930年代前半 日本民藝館蔵

気候風土が育んだ暮らし──沖縄
 本土から遠く離れた沖縄は、古い歴史を持ち、独自の文化、風習を育んできた。第Ⅱ章最後では、柳が「奇跡」と称えた沖縄の民藝に焦点をあて、紅型、織物、陶器、漆器などにより、かつての沖縄の豊かな暮らしを顧みる。

流水に桜河骨文紅型着物 沖縄 19-20 世紀前半 静岡市立芹沢銈介美術館蔵

第III章 ひろがる民藝──これまでとこれから
 柳宗悦の没後も民藝運動は広がりを見せた。濱田庄司、芹沢銈介、外村吉之介が1972(昭和47)年に刊行した書籍『世界の民芸』では、欧州各国、南米、アフリカなど世界各国の品々を紹介。各地の気候風土、生活に育まれたプリミティブなデザインは民藝の新たな扉を開いた。

 一方、民藝運動により注目を集めた日本各地の工芸の産地でも、伝統を受け継いだ新たな製品、新しい世代の職人たちが誕生している。

 本展では国内5つの産地から、過去と現在に作られている民藝の品々や、そこで働く人々の“いま”を紹介する。

 そして、本章最後では、現在の民藝ブームの先駆者ともいえるテリー・エリス/北村恵子(MOGI Folk Art ディレクター)の愛蔵品や、世界各地で見つけたフォークアートが“いま”の暮らしに融合した「これからの民藝スタイル」を、インスタレーションとして提案する。

III ──❶ 『世界の民芸』──新たな民藝の世界

双魚文上着裂(モラ) サンブラス島(パナマ) 20 世紀後半 静岡市立芹沢銈介美術館蔵

III ──❷民藝の産地─作り手といま
 昭和戦後期以降の日本のものづくりは機械での生産が主流となるが、伝統を失わずに手仕事を続ける産地、失われた手わざの復活を試みる職人、新たな民藝を創作する人々が登場する。本展では5 つの産地に焦点を当て、かつての品物と現代の製品、そこで働く人々のいまを紹介する。

小鹿田焼おんたやき(大分県)
 江戸時代中期から続くやきものの里。川の水流の力で地元の土をき、地形を活かした登り窯で焼く。一子相伝の窯に伝わる日常使いの器たち。

小鹿田焼(大分、現代作:坂本工窯、坂本浩二窯) Photo: Yuki Ogawa

丹波布たんばぬの(兵庫県)
 手紡ぎの糸を草木で染め、絹のつまみ糸を織り込む手織の布。江戸末期に始まり、一度は廃れるも戦後復興し、現代の作り手へと引き継がれる。

丹波布(兵庫、製作風景)Photo: Yuki Ogawa

鳥越竹細工とりごえたけざいく(岩手県)
 数多い産地のなかでも柳が好んだのが、寒冷の地の細くしなやかな原料でつくる繊細な竹細工。現在は素材調達の危機という局面をむかえている。

八尾和紙やつおわし(富山県)
 もとは薬売りの包み紙として発展した八尾和紙。現在、八尾で唯一和紙作りを続ける桂樹舎は、芹沢銈介の影響による色鮮やかな型染和紙に今も新しい試みを重ねる。

倉敷ガラス(岡山県)
 ガラス職人の小谷眞三が、民藝運動の関係者らの勧めで始めた日常使いのぬくもり溢れるガラス器。現在は二代目の工房に引き継がれる。

Mixed MINGEI Style by MOGI
 第Ⅲ章最後では、現在の民藝ブームを牽引する存在として活躍するテリー・エリス/北村恵子(MOGI Folk Art ディレクター)による、現代のライフスタイルと民藝を融合したインスタレーションを展開する。

MOGI Folk Art ディレクターのテリー・エリスと北村恵子 Photo: Yuki Ogawa

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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