gallery N(名古屋) 2024年12月14〜28日
三木瑠都
三木瑠都さんは1982年、神奈川県生まれ 。名古屋芸術大学美術学部洋画コース卒業。同大学院美術研究科同時代表現コース修了。5年前から、渥美半島(愛知県田原市)で自然の光への感受性をベースに絵画を探究している。
gallery Nの個展などで作品を発表。2024年には、名古屋市と愛知県豊橋市のガレコで2人展の伊藤里佳・三木瑠都展「パイナップル会議」を開いた。
「光を辿る」
渥美半島のアトリエ周辺の環境をモチーフにした絵画が大半である。世界を大づかみに捉えながら、ニュアンス豊かな色彩、しなやかな筆触、とりわけ湾曲するような線が伸びやかに踊り、画面を活気づけている。
だが、室内画、風景画を描くこと自体が目的ではないように察せられる。かといって、単純に感情や心象を表現しているわけでもない。
室内や窓、あるいは屋外の風景、自然を描きながら、結局、それ以上に、そこに満ちる光、大気を感じさせる絵なのだとわかる。
対象は自在にデフォルメされ、時にアップになって抽象化されていることもあって、現実と幻視のあわいを捉えている印象も与える。つまり、時空を超えた深い記憶のイメージ、はるか遠くのかすかな声が取り込まれているようである。
不意に現れるアーチのような形や、矩形と唐草模様の対比など異質のものを並置、大胆な変形、強調、歪な遠近感など、すべてが緻密に計画されたというよりは、むしろ計らいを感じさせず、感覚的である。
今回、三木さんは、窓から室内に差し込む光線や、雲間から降り注ぐ薄明光線を強調しているが、そこにロマン主義的な自然賛美、過去への憧憬、抒情などというものはなく、むしろ、ユーモラスなほど露骨である。
三木さんは初日のトークイベントで個展タイトルの「光を辿る」について、「記憶を辿ることに重なる」と発言している。
つまり、一見、清朗な画面には不穏さがにじみだしているが、それこそ描くことで現れてくる無意識的な不調和、不気味さ、不思議さである。
そうして接近する、パーソナルな自分が投影された世界には明確な主題の中心性はなく、いわく説明しがたい奇妙さが際立っている。
身の回りの風景と出合い、その接触した素朴なところから描くことで、記憶、すなわち、これまで生きてきたいのちがあちらこちらで湧き出ている。
それはコンセプトや感情、メッセージでも解釈でも、はたまた形式でもない。アイデンティティーという固定的なものではなく、むしろ外部との関係性で変化してきた「自分」である。
だから、そこには、主体が見通した客体としての風景や、統一的な遠近感はない。確固たる自己でなく、弱く不完全な「自分」が混ざり合った無常の連鎖、その流動的なもの。
渥美半島の光の中、身近な室内や屋外の風景に、そんな作家自身が描かれている。人生も人間も複雑である。それでも光を感じているところがこの作家の魅力であろう。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)