約160作品を展観 不思議な世界に入り込む体験展示も
豊田市美術館で2024年7月13日~9月23日、「エッシャー 不思議のヒミツ」が開催される。
同時代のアートのみならず過去の美術からもインスピレーションと影響を受けたマウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898-1972)は、幾何学的な構成と厳密さを追求して、視覚芸術の本質に迫る作品を生みだした。
多才で先進的なこの芸術家は、幻視的イメージや錯視を用いた作品で独自の芸術世界を創造した存在であったと言える。
エッシャーが自身の独創的な世界を形づくる鍵を見出したのは、数字や幾何学、数学の世界においてだけではない。奇想の天才として、芸術的言語を幅広く駆使し、それらを融合させて魅力的な新しい道を切り開いたのである。
この点で、エッシャーは美術史における例外的な存在であり、幅広い層の人々の関心を惹きつけてやまない人物だと言える。
本展では、エッシャーがサミュエル・イェッスルン・ド・メスキータに師事していた頃のアール・ヌーヴォーにインスピレーションを得た作品をはじめ、イタリア滞在時代の作品も含めた約160作品を展観する。
あわせて、エッシャーの不思議な世界に入り込むことができるさまざまな体験展示が会場のあちらこちらに用意される。
それらによって、エッシャー作品の根底にあり、新しい世代のあらゆる分野の芸術家に刺激を与え続けている数多くの遠近法的、幾何学的、構成的パラドックスと能動的に関わるという、貴重な機会を提供する。
マウリッツ・コルネリス・エッシャー(Maurits Cornelis Escher 1898-1972)
オランダの版画家。レーワルデンに生まれ、ラーレンで歿。デルフトの工科学校で学んだ後、ハールレムの建築・装飾学校へ移り建築を、その後すぐに版画を学んだ。
卒業後にイタリアに旅したエッシャーは、その後も同地を訪れ、初めのうちはイタリア風景を題材にした精緻な描写による版画を作っていた。
その間、スペインに旅行した際にグラナダのアルハンブラ宮殿を訪れ、そのアラベスクによる装飾に注目し、動物や爬虫類、昆虫などを様式化させた形態によって画面全体を規則的に埋め尽くす抽象的、幾何学的な作品を作り始めた。
やがてそれを深化させ、図と地の関係や、平面による描写と見かけの立体性との関係における錯視効果をねらった作品を生み出した。
概念と視覚のずれをとおして不条理な空間の知覚を喚起する作品は、神秘的、幻想的な雰囲気を持ち、SF世代の若年層に人気を博し、やがて世代を超えて広がるとともに、数学の専門家からも注目された。
展覧会概要
展覧会名:エッシャー 不思議のヒミツ
会 期:2024年7月13日[土]~9月23日[月・祝]
開館時間: 午前10時~午後5時30分[入場は午後5時まで]
休 館 日: 月曜日[7月15日、8月12日、9月16日、23日は開館]
会 場: 豊田市美術館 展示室6,7,8
主 催: 豊田市美術館、NHK名古屋放送局、NHKエンタープライズ中部
共 催: 中日新聞社
協 力: ルフトハンザカーゴAG
企画協力: アルテミジア、M.C.エッシャー財団、マウリッツ
制作協力: NHKプロモーション
観 覧 料: 一般1,700円[1,500円]/高校・大学生1,200円[1,000円]/中学生以下無料
[ ]内はオンラインチケット、前売券及び20名以上の団体料金
*前売券(7月12日まで):豊田市美術館、オンラインチケット、T-FACE B館2階インフォメーション、メグリア11店舗(取扱店舗:本店、エムパーク店、セントレ、藤岡店、三好店、若園店、志賀店、朝日店、井上店、はなぞの店、うねべ店)
見どころ
(1) 初期から晩年までの代表作を網羅し、エッシャーの全容を知るまたとない機会となる。
学生時代に制作した作品にはじまり、「だまし絵」的な代表作はもちろんのこと、晩年に至るまで約160点の作品をとおしてエッシャーの画業の全容を紹介する。
中でも、故郷のオランダを離れイタリアに滞在した時代の作品は豊富で、エッシャーが20~30代という修行時代に制作した作品には、幾何学的な形態や強調された遠近法、建築の複雑な構造に対する関心など、後の作品のルーツを見出すことができる。
(2) テーマごとに分かれた展示で、エッシャー作品の特徴を分かりやすく鑑賞できる。
エッシャーが示した関心の対象は幅広く、反復や循環、螺旋構造、反射する面、幾何学的立体など、多くの事象を探究し、その成果を作品へと昇華させた。
本展では、テーマごとに作品を展示することで、エッシャーが何に関心を抱き、そして、そこから何を目指そうとしたのかを明らかにする。エッシャーの特徴が明快に伝わる展示構成になっている。
(3) 体験コーナーで、作品に仕組まれた「不思議のヒミツ」を楽しみながら体感できる。
本展では、エッシャー作品の世界観を疑似体験することができる体験コーナーがある。どのような原理で人は錯覚に陥るのか。エッシャーが作品に取り入れたトリックについて、実際に体験しながらその仕組みを学べる。
自らエッシャーの「不思議のヒミツ」を体感することで、より深くエッシャー作品を理解できる。作品を見て、体感して、展覧会を楽しめる。
展覧会構成
第1章 デビューとイタリア
ハールレムの建築・装飾学校でアール・ヌーヴォーの版画家サミュエル・イェッスルン・ド・メスキータに認められたエッシャーは、版画の技術を着実に向上させていった。卒業後に旅行し、その後も滞在したイタリアでの修業時代に芸術家としての個性を確立させ、初の個展も当地で開催した。本章では、イタリア各地の風景や自然、歴史がエッシャーの創造力を刺激して作られた作品、また生活の拠点となったローマの風景画など紹介する。
第2章 テセレーション(敷き詰め)
1922年、エッシャーはスペインを旅し、グラナダのアルハンブラ宮殿を訪れた。その装飾文様に刺激を受けたエッシャーは、それらを模写し、そこから得たインスピレーションをもとに独自のテセレーションを作り上げた。第2章では、エッシャーのキャリアにおける転機となった、それらの作品を紹介する。
第3章 メタモルフォーゼ(変容)
テセレーションというテーマとも強い関連があり、エッシャーの作品のもう一つの重要なテーマは、ある形が別の形へと変化していく様子が描かれるメタモルフォーゼである。大作《メタモルフォーゼⅡ》では、オランダ語の「metamorphose(変容)」に始まり、鳥、トカゲ、ハチの巣、聖堂、チェス、ハチ、魚、そして「metamorphose」へと自在に変容する様子が表されている。
第4章 空間の構造
空間の構造もエッシャーの関心の対象だった。鏡上の面を扱った「反射面」、深い奥行きの印象を作り出そうとした「空間の構造」、平面状のひもが入り組んだ表面を作り出す「リボン」、シンプルな多面体が重なり合い複雑な空間を作り出す「幾何学的立体」など、さまざまなモチーフ、テーマから生み出された作品を紹介する。
第5章 幾何学的なパラドックス(逆説)
二次元である1枚の紙の上の平面図形によって三次元的な視覚の印象を得ること、あるいは、三次元上ではありえない構造を二次元上につくり出すこと。さまざまな手法を駆使して見る人に強い印象を与えるこれらの作品は、数学の専門家たちからも注目された。エッシャーの空間のパラドックス、まさに「不思議のヒミツ」が詰まった作品を紹介する。
第6章 依頼を受けて制作した作品
他の芸術家たちと同様に、エッシャーも依頼を受けて作品を制作することが少なからずあった。蔵書票、グリーティング・カード、挿絵などである。このような小さな仕事で、後の大きな作品に取り入れるアイデアを試していた面もあった。