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眞板雅文 GALERIE hu:(名古屋)で2024年7月6-26日に開催

GALERIE hu:(名古屋) 2024年7月6〜26日

眞板雅文

 眞板雅文さんは1944年、旧満州(中国東北部)の奉天生まれ。神奈川県横須賀市育ち。2009年急逝。

 1976年、第37回ヴェネチア・ビエンナーレ、1977年、第10回パリ・ビエンナーレに参加。1986年にも、第42回ヴェネチア・ビエンナーレに出品した。

 ギャラリー、美術館等、国内外で精力的に作品を発表。1997年の「眞板雅文展-音・竹水の閑」 (入善町下山芸術の森発電所美術館/ 富山)、2000年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2000」(松之山町、新潟)、2004年の「刻-還流 眞板雅文展」(みのかも文化の森 美濃加茂市民ミュージアム/ 岐阜)など数多くの展覧会に出展した。

 東海地方では、名古屋のASG、桜画廊、 岐阜のギャラリー・キャプション、岐阜・美濃加茂のギャラリー・エフなどで個展を開催。2022年には、岐阜市のギャラリーキャプション / エチカで眞板雅文展が開かれ、キャプションで1986年と1990年に開いた個展の出品作を中心に作品が展示された。

 GALERIE hu:での個展は、2007年が最初。2009年の逝去を挟んで、以後、2011年、2013年、2017年に続き、5回目となる。  

2024年 GALERIE hu: 個展

 眞板雅文さんは1960年代から1980年代初めまでは、主に写真によるコラージュ、写真と事物によるインスタレーションを制作し、その後、植物や自然の風景をモチーフに彫刻へと進んだ。

 今回の展示は、1970年代の写真作品が中心である。

 たとえば、海岸から撮影した海の写真にフィクショナルな要素(黄色い線や白い台形)を追加した「自然線・人工線」、あるいは、水の波紋の写真に抽象的な円形のイメージがコラージュされた「Circle」などのシリーズである。

 また、裸の人物の後ろ姿を写した等身大の写真作品のシリーズ「人間と物質」も展示されている。よく知られるように、このタイトルは、コミッショナーに美術評論家の中原佑介さんを迎えて開催された1970年の「第10回日本国際美術展(東京ビエンナーレ)」のテーマと同じである。

 GALERIE hu:での作品で、人物は、ケーブルを巻き付けるなど工業素材的な物体(物質)を裸身にまとい、その物体が写真から現実空間に出たように写真の手前に配置されている。いわば、イメージと物体の並置である。

 イメージと物質、自然と人工、現実と虚構、事物と存在などが、視覚的、認識論的、感覚的、身体的に捉え直されている。

 1970年代は、コンセプチュアル・アートの影響が強い時代であった。芸術概念や視覚性、認識を問い直す手段、作家の行為性などとの関係で写真が使われた。

 また、当時は、1970年前後に現れた「もの派」によって、主体と客体を超えた関係性が究められ、写真においては、中平卓馬の「植物図鑑」によって、コードによる意味性、物語性と事物の分離が企図された。

 眞板さんの写真作品にも、人間という主体と、客体である自然、外界との関係を再考する視点が感じられる。

 ただ、そこにあるのは、概念性というよりは、どちらかといえば、自分を含めた空間/自然と物質の関係、世界の身体的、感覚的な捉え方の探究、存在することのリアリティに関わる興味ではないだろうか。

 著書「眞板雅文の彫刻=写真」を著した東京造形大学教授、藤井匡さんは、こうした1970年代の眞板さんの作品を、その後の彫刻と連続する、写真形式による「彫刻」として捉えている。

 藤井さんが分析する眞板作品の造形原理の基本は、コラージュ的な発想である。そこにあるのは、自己主体を中心に世界を客体化する視点でなく、自然と事物における身体性、感性の経験である。

 人間が世界を分節し、概念、意味を与えるのでなく、 自然を人間をも含む全体性として捉えていく。そのことによって、1970年代が逆照射されるような鑑賞体験として、今回の展示は貴重なものになったように思う。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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