YEBISU ART LABO(名古屋) 2022年3月11日〜4月10日
(5月1日まで会期延期)
丸山のどか MARUYAMA NODOKA
丸山のどかさんは1992年、新潟県生まれ。名古屋市在住。
2016年、愛知県立芸術大学美術学部美術科彫刻専攻卒業。2018年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科美術専攻彫刻領域修了。
2019年、ファン・デ・ナゴヤ2019の一環として、名古屋市の市民ギャラリー矢田で個展「風景をみる/風景にみる」を開いている。
精力的に制作・発表しているが、筆者が丸山さんの作品を見たのは、2020年の「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020」の旧・名古屋税関港寮での展示が最初である。
丸山さんは、自分に馴染みのある風景、空間をベニヤ、角材のみで再現化した作品を制作している。表面は、白ペンキに着色剤を混ぜて調色し、塗っている。
アッセンブリッジでは、自身が以前、アルバイトをしていた名古屋・藤が丘の大衆的な中華料理店「中華楼」とその上階の雀荘がモチーフになっていた。
筆者は偶然、家族で「中華楼」によく通っていて(現在は閉店)、おいしい餃子を生ビールと一緒に堪能した。
展示では、店のテーブルや椅子、観葉植物など、全てを木材で立体化していた。
実寸、精巧な造形であると同時に、単純化、均質化、虚構化され、スモーキーな中間色で木材が塗られていることもあって、リアルでありながらリアルでない白昼夢のような不思議な存在感を感じた。
この浮遊感、非現実感は、この中華料理店と雀荘の入ったビルが取り壊され、消えてしまったという記憶の遠さとも関わっている。
資材館 2022
今回は、普段、丸山さんが制作に必要な素材を調達するために訪れているホームセンターの「資材館」の空間を、角材とベニヤ板で再現している。
写真からは、分かりにくいかもしれないが、例えば、個々の角材が束ねてあるように見える全体が、ベニヤ板と角材で作られていて、中は空洞である。つまり、張り子みたいな立体が組み合わされて空間が作られている。
「資材館」を資材が展示してある空間と捉え、美術館のアナロジーとしているところも面白い。
販売用の材木や、それを運ぶ台車などが巧みに再現され、材木が壁に掛けられた雰囲気や、材木を縛ってある青いPPバンドなどの細部も見事に似せてある。
もっとも、作品を間近に見ると、物質的にリアルに作ることが目的ではなく、むしろ、空間がそれらしく見えるぎりぎりのところを狙っていることが分かる。
合板の側面の表現や、PPバンドのずれなどの再現は見事だが、細部を本物に近づけるというより、個人的な体験に基づく空間の知覚性がテーマなのである。
私たちが普段接しいる複雑な世界の中で、「見ている」といえるのは、これぐらい単純な、あたかも舞台セットのようなものではないか。そんな問いかけである。
私たちは見ているようで見ていない。つまり、現実の擬態として、張り子のような材木が置かれた「資材館」の風景が作られている。
ここで面白いのは、丸山さんが購入する台車に載せられた材木、すなわち、丸山さんにとって心理的な距離感の近い対象は解像度が高く作られていて、丸山さんの関心が薄い対象は、解像度を下げて作っている点である。
いわば、買う予定のない遠くの材木は大雑把に作っていて、買う予定の台車の上の木材は、より緻密に作られている。
解像度や色彩が心理的な距離や記憶によって塗り分けられているのは、例えば、アッセンブリッジの展示で、彼女の記憶から遠ざかっていく閉店後の「中華楼」がスモーキーな色彩で塗られ、赤いテーブルの色が薄くなっていたのと同様である。
実は、丸山さんは今回、「資材館」の空間を、供給不足で木材価格が暴騰している「ウッドショック」や、自然環境の問題も絡めて制作している。
普段関わっている身近な空間を社会とつなげて再現しているところが、彼女の作品にはある。
「中華楼」と雀荘をモチーフにしたときも、単に自分がアルバイトをしていた場所というだけでなく、時代の変化で取り壊され、忘れ去られてゆく風景を、都市の中心部から外れ、発展から取り残されたアッセンブリッジ会場周辺の場末の雰囲気に重ねたのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)