名古屋市守山区の画家、山村國晶さんの作品集[DAILY PAINTING 2010-2019] がSHUMOKU GALLERY(名古屋市東区)から出版された。
急性心筋梗塞で倒れ、心肺停止から蘇った翌年の1998年、2008年に続いて、3冊目となる。今回の編集は、美術史家で、多摩美術大美術学部芸術学科准教授の大島徹也さん。 テキストも大島さんが寄せている。大島さんは、元愛知県美術館主任学芸員 。広島大大学院准教授などを経て、2019年4月から現職。
山村さんは画面の左上から、「山村」の「山」の字を描いて、そこから帯状の折れ曲がった形態を増殖させることで画面を埋めていく。
ジャクソン・ポロック、バーネット・ニューマンなど戦後アメリカ絵画を中心に研究している大島さんは、山村さんの絵画の源流となるストライプに、ジャスパー・ジョーンズ、ケネス・ノーランド、エルズワース・ケリー、フランク・ステラなどの画家や、ネオ・ダダ、カラーフィールド・ペインティング、ハードエッジ、ミニマル・アート、オプ・アートなどの複合的な影響をみている。
その後、1980年代末には、染色体のような曲がった帯状の形態が全面を覆う。山村さんは1つの作品では、自律性に従って禁欲的なやり方で描いていき、それでいて生まれてくるものは自由というべきか、鷹揚さと繊細さがともにあるような画面を作っていく。
大島さんのテキストには、山村さんが戦後のアメリカ絵画を乗り越えようと取り入れた日本の伝統的な色遣いや、細やかな塗りのプロセスも詳しい。根来塗りの黒漆による下塗りの上に朱漆塗りを施す漆器技法を参照した近年の新しい試みも紹介されている。単純そうに見える絵画に、実に豊かな表情があることも、こうした制作過程を知ると納得できるであろう。
大島さんのテキストには、作品の裏に、ブロックを積み上げるように描く作業の開始日と終了日を記され、描くことを日々を生きることと重ねている山村さんの絵画への姿勢も触れられている。
山村さんとは、筆者が美術を担当する新聞記者だった1990年代中頃からの付き合いである。作品もさることながら、温かい人柄にいつも感謝している。巻末の弘中正美さんのエッセイ「道」、山村さん自身の文章「新しい環境—あとがきにかえて」も、とてもいい。弘中さんのエッセイからは、長年の交流から感じられた山村さんの作品と人柄の大切な部分が浮かび上がる。山村さんの文章には、生活の中の美学と、金城学院大教員の定年退職、一人娘を嫁がせた父親の思いなど、近年の変化がつづられている。
A4変形判48ページ。3300円。愛知芸術文化センター地階のART SHOP MY BOOKで購入できる。