名古屋画廊(名古屋)2023年2月10〜21日
久米亮子
愛知県生まれ。主に名古屋と東京で作品を発表している。1993年に春陽会会員推挙となったが、95年に退会している。
1997年、「VOCA 1997 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」に出品。1999年、第1回夢広場はるひ絵画展(愛知県清須市)で奨励賞を受賞した。
個展は、名古屋画廊、ギャルリー東京ユマニテなどで継続的に開いている。
-bloom bloom- 名古屋画廊 2023年
アクリル絵具で、一貫して柔らかな抽象絵画を描いている。バイオモルフィックといえる生命的な形、それでいてシンプルな形象で画面を構成している。
このシンプルさは、艶かしく、同時に強い。シンプルだけど、表層的というわけではなく、深い。つまり、したたかである。
以前は、ペースト状の大理石も使って、レイヤーの重なりを意識させたニュアンスのある画面づくりをしていたが、今はかつての画面と比べ、階調を使わず、より平明である。
つまり、あいまいなものをそぎ落としていった感じである。一部に空間に形象が浮かんでいるような作品があるものの、全体には、図と地の関係が反転するような感覚がある。
隣り合う形と形、色と色が強く作用し合い、同時に柔らかな関係にある。明瞭であり、しなやかであり、多様である。
明晰さといってもいい、色彩の美しさと、たおやかな形の面白さが際立つのである。情緒、繊細さ、可憐さというものを削ぎ落とし、色と形を潔さによって示している。
言い換えると、動きやエネルギーが感じられるというよりは、クールで安定した色と形そのものの関係が魅力になっている。
自然界の中から抽出したものを可能な限り純化、深化した色と形といえばいいだろうか。
抽出し、削ぎ落とす過程で、色と形、それらが充溢する絵画空間を洗練させる。生体的な形と色が純化する中で、絵具による無機質な色面に近づきながら、その理知的なところと、なお温かみ、湿り気のあるところのコンビネーションによって、成り立っている。
タイトルは描いた後につけられる。例えば《tsuyukusa》など植物に関わるタイトルも、描いた後につけられ、最初からツユクサがモチーフというわけではない。
植物的であるが、植物を描いているわけではない。あくまでそれは絵具によって、平面上の色と形を探究したうえで、それらの関係によって生まれた絵画空間である。
自然界の中から純化した、植物的なメタファーとしての形と色。平明で、豊かで優しく、つつましい。慈しみに満ち、落ち着いていて、そして強い。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)