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古川清展

ウエストベスギャラリーコヅカ(名古屋) 2020年5月12〜23日

 名古屋市中村区名駅5から同市中区丸の内2へ移転したウエストベスギャラリーコヅカの最初の展覧会として、古川清展が開かれている。新しいギャラリー空間は、平面6×2.35メートル、高さ2.5メートルほど。これまで、何度も移転があったが、最も小さいと思われる。展示スペースも、従来のような2つの空間でなく、1つ。小空間にして少しペースをコントロールしながらも、新たな出発である。場所は、名古屋市営地下鉄丸の内駅から近い。

古川清

 古川さんは1949年、東京生まれ。名古屋造形芸術短期大学専攻科(彫刻コース)修了。鉄を主体とした彫刻を長く制作し、このギャラリーでは、70年代末から発表してきた。筆者は、90年代半ばから作品を見る機会を得た。1999年11月には、愛知・稲沢市荻須記念美術館であった画家の西村正幸さんとの2人展「INAZAWA・現在・未来展(4) 古川 清・西村正幸」に出品。充実した展示が印象に残っている。

 その時の展示では、格子や柱状構造を反復させながら、それらが連鎖的に伸びていく力強い成長のイメージ、同時に軽やかでもある造形と空間に作用する構成を確認できた。とりわけ、鉄を中心した構造物に動感と軽やかさを与えていく造形、配置には目を見張った。

 そうした造形力は、今回も発揮されている。細い茎のような縦棒がすっくと立ち、先端は花弁のようになっている。軸の途中は、葉だと思われる構造物が付き、子房のあたりには、リングのような曲線が絡みついて美しい。床面には、茎を支える球根のような形態があり、そこから根が横に広がるように延びる。根は、直線と曲線が幾何学的な構成をつくりだし、所々で新芽のような展開を生み出す。そう、これは生命力あふれる植物のイメージである。
 あたかも、それは、植物の成長と生命の循環を抽象化したような姿である。金属であるのに生きているような形態。動きと時間を感じさせるように広がり、生き生きとした成長のイメージと、それを未来に連鎖させる生命力を孕んでいる。

古川清


 同時に注目すべきは、古川さんの素材への意識である。同じ金属でも素材の特徴を見事に生かし、繊細な変化を生み出している。素材は、鉄のほか、ステンレス、真鍮、鉛、ガルバリウム鋼板。清々しい風が通り抜けるような全体を眺めた後、作品に近づき、細部を見ていくと、実に多様な素材感を抽出していることが分かる。

 絵画の色彩や線、筆触がそうであるように、素材に見合った加工によって生み出された表情が相互に呼応しながら全体の風景が作られている。金属素材の特徴を知り尽くし、それを形態や加工方法にどうつなげるかについて意識的であるという意味では、工芸的な部分もある。純粋美術の世界では、工芸的であることがネガティブに取られかねないが、今回、素材の金属の表情をつぶさに見ていったとき、むしろ素材に精通した確かな造形、部分の表情と質感の変化が作品に力を与えていることを肌で感じた。

 彫刻の素材を漠然としたイメージやマッスとして捉えるのでなく、それぞれの金属素材の特性ともっと深く対話をしているということが作品の細部から伝わってくる。作家のコンセプトや意思によって力で形にねじ伏せるのでなく、素材の魅力を引き出して形態や表面の処理、構成につなげていることが、金属なのに柔らかく、生き物や植物のような生き生きとした感覚を生むのだろう。

 上に伸びる植物の成長するイメージと、未来を意識させる横へ延びるテンポが小空間の展示でも確認できた。理知的・幾何学的でありながら、しなやかで、しっかり構築されながら軽やかで、上に伸びながら横方向へも広がる生動感に満ちた、金属とは思えない豊かなバイオモルフィックな作品である。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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