バッティングららら緑店(名古屋) 2022年7月30日〜10月10日
バッティングセンターにホワイトキューブの展示空間 現代美術のグループ展を開催
名古屋のバッティングららら緑店(緑区鳴海町杜若92)で2022年7月30日〜10月10日、現代美術のグループ展「GROWING SPACE」が開催されている。国際芸術祭「あいち2022」のパートナーシップ事業である。
出展作家は、木村充伯さん、ルック・ショルさん、安宮理子さんの3人。バッティングセンター入口ロビーに設けられたギャラリーで、営業時間中は気軽に鑑賞できる。本格的な現代アートをバッティングセンターで展示するという注目の試みである。
スポーツ・遊興施設と現代アートいう意外な組み合わせによって、サイトとスペースの新たな展開、アートとの出会いの機会の創出を目指している。
バッティングららら緑店など、愛知県内でバッティングセンターなどの事業を展開する「マルエ」(愛知県春日井市)と、2019年からアートプロデュースを手掛ける「SYNONYM(シノニム)」(名古屋市中村区)の共同企画である。
2021年3月、バッティングららら緑店のリニューアルオープンに合わせ、ロビーにホワイトキューブの展示空間「GROWING SPACE」を開設したのが契機となった。
そのとき、ロビーに、安宮理子さんのシャンデリア(照明器具)の作品「神経- 筋 機能」を設置。今回は、その作品を起点にキュレーションされた初の特別展示である。8月24日には、木村さんによるワークショップも開催された。
今後は、「成長するスペース」の名称通り、展示作品を入れ替えつつ、さまざまなプロジェクトを展開する。
GROWING SPACE
展覧会のテーマは、コロナ後を見据えた自然と動物、人間の共存とエスケーピズム(現実逃避)である。
展示は、現代の世界が直面するパンデミック、ディストピアを映し出すとともに、自然への回帰や動物との共存、自由な空想、新たな遭遇など現実からの逃避を積極的に捉え返している。
木村充伯
木村充伯さんは1983年、静岡県生まれ。2007年、名古屋造形芸術大学大学院修了。 現在は、静岡県を制作拠点としている。名古屋市美術館の「現代美術のポジション 2021-2022」に出品した。
動物を主なモチーフに、クスノキ、ヒノキや油絵具を使った彫刻をはじめ、平面、インスタレーションを制作している。木の毛羽立ち、絵具の物質感など素材の特徴とモチーフとの関係、動物と人間、環境のつながり、境界がテーマとなっている。
近年は、コロナの感染拡大をきっかけに「呼吸」という切り口で、人間と動物に意識を向けている。
呼吸するということで言えば、動物も人も同じように呼吸をする。機械やパソコン、スマホは呼吸をしない。木村さんは、呼吸という営みによって、生命とそのつながりを私たちに考えさせてくれる。
今回出品された2作品はいずれも、「Breathe」(息)というタイトルがついている。
モチーフは、中央アジアに生息する草食動物サイガ。厳しい環境の中で生きるため、息を吸い込む際、外気の温度を大きな鼻で調整する生態に着目し、呼吸を通じて、パンデミック下における人間の生存についても思いを巡らせる。
2020年のケンジタキギャラリー(名古屋)での個展レビュー、「愛知県美術館 2020年度第3期コレクション展」も参照。
ルック・ショル
ルック・ショルさんは1991年オランダ生まれ。オランダのハーグ王立美術学院、ウィレム国王学院で学び、英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号を取得した。
ロンドンとロッテルダムを拠点に制作。今回が日本で初めての作品発表となる。
写真イメージとコンピューターによる3DCGを使い、フィジカル、あるいはデジタルな逃避的世界を探求しているアーティストである。
今回は、旅の風景イメージをツリー型に展示。鑑賞者は、その周りを回遊しながら鑑賞する。同時に2つの画像を見ることはできず、ツリーの周囲を歩くことで、ゲームのように謎めいた風景イメージに遭遇する。
風景は、自然の中で撮影されたものとコンピューターで丁寧に加工された想像上のものが混在している。写真には、ドイツのブラックフォレスト、ヨルダンの死海や砂漠、月のイメージが使われている。
エスケーピズムと崇高を感じさせる多層的なイメージは、美しさと好奇心、冒険心、希望と安寧、不安など多様な感情をかきたてる。炎の動きを捉えた映像作品も出品している。
安宮理子
安宮理子さんは1993年、大阪府生まれ。2015年に京都精華大学を卒業後、英国ロンドンのセントラル・セント・マーチンズでアート・サイエンスを専攻し、芸術学修士を取得した。現在の制作拠点は東京である。
人間の体に関連した主題をテキスタイルやミクストメディア、インスタレーションなど多様なメディアによって作品化するアーティストである。
知覚の可能性を広げ、マルチメディアによって鑑賞者とのコミュニケーションを図る狙いもある。
今回展示された2作品は、いずれもインタラクティブな作品である。
ロビーの天井から吊るされた「神経- 筋 機能」は、人体骨格を想起させるシャンデリアで、ラテックスを細かく割いて筋繊維のように制作。電気信号が神経から筋肉へと伝達される様子を光で再現し、鑑賞者の場所によって反応する。
もう1点は、筋肉の伸縮によって血液を全身に循環させる心臓に着目。心拍センサーによって、鑑賞者の心臓の動きを視覚化した作品である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)