ハートフィールドギャラリー(名古屋) 2022年8月18〜28日
加藤恵利
加藤恵利さんは1967年、愛知県生まれ。金城学院大を卒業後、Bゼミで学んだ。Bゼミは、1967年から2004年まで横浜市にあった現代美術の先進的な教育機関である。
筆者が加藤さんの作品と出合ったのは1996年で、加藤さんはその後、育児による長期間のブランクを経て、制作を再開した。
1990年代の加藤さんの作品については、前回の個展レビューで書いたので、そちらを参照してほしい。
かつて、建築部材を使った大規模なインスタレーションを展開した加藤さんは現在、薬やお菓子の空き箱、段ボール、チラシ、フライヤーなどの「ごみ」を分解、その断片を再構成し、手を加えることで作品にしている。
断片からの創造2022
今回も、平面、立体、あるいはレリーフ状のものなどを自在に展示している。
展開する、分解する、切る、ちぎる、接続する、構築する、重ねる、縫うなどのシンプルな手作業が、制作の基本である。
そうした小さな節度ある「再生」によって、新しく、美しく、ときに動きを感じさせる作品が生まれる。
作家が素材を大きく改変するのではなく、素材に寄り添うような繊細な手作業が、世界を発見していくことに通じるような作品である。
作り込みすぎず、素材の個性を生かし、あるいは、素材の潜在力を見つけるような優しさで色彩の豊かさ、模様、形のいびつさ、複雑さ、乱調、ハプニングなどを、ありのままに受け止めている。
節度が大切である。そうやって、加藤さんは、「ごみ」である素材に「役」を与えている。しかも、作品の「駒」に利用するのではなく、「役」を発見している。
そうして生まれた作品は、はかなく、ささやかで、それでいて、いくらかアナーキーで、命のように輝いている。
それは、あたかも、工業的に作られた粗末な素材がひそやかにもつ色や構造、模様、形に小さな命を吹き込み、その個性をすくいあげるような制作である。
今回も、いくつも新しい試みがあった。小さなことかもしれないが、そうしたアイデアが作品を生き生きとさせる。
小さな作品を壁に数多くランダムに展開したインスタレーションは、それぞれが星々のように絶妙な距離感で関係性をもちつつ、動きをはらんだ宇宙のようである。
廃材とは思えない形、色彩、模様、構造のバリエーションが、豊かで複雑な空間を生みだしている。
空き箱を展開して、黒糸で覆い尽くすように縫った作品も印象的である。奇妙な形と糸の重なり合う厚みが調和して、ほんのりと温かみを感じる。
展開した空き箱の表面の層を、皮膜を剥ぐようにカッターナイフでめくり取って、表情を変化させた作品もある。彼女にとっては、剥がす、削るも大事な作業である。
別の作品では、カッターナイフで紙の表面を薄く削いで、繊細なグラデーションを出している。絵具を使ったように見えるが、そうではない。
穴あけパンチで使用済みの空き箱、封筒、チラシやフライヤーに開けた小さな円形を縦横に並べた作品も、変化に富んで美しい。
宅配便で届いた箱から剥がしたビニールテープを、一緒に剥がれて付着した段ボール紙の表層とともに構成した作品もある。
こんなものが作品になるのかと思う素材が、とても美しい姿を見せている。
小さな1つ1つの作品、あるいは、その1つ1つの部分が、そこに在ることの喜びを感じさせてくれる作品である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)