N-MARK B1(名古屋) 2024年8月8〜17日(木金土開催)
加藤豪
加藤豪さんは1964年、愛知県生まれ。名古屋市在住。東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。同大学院美術研究科修了。芸大では、同級の会田誠さん、小沢剛さんらと同人誌『白黒』を発行していた。
1996、1997、1998年にGallery HAM(名古屋)で個展を開いていて、筆者は当時から作品を見ている。
1997年には、世田谷美術館の開館10周年記念展として長谷川祐子さんが企画した「デ・ジェンダリズム~回帰する身体〜」に、マシュー・バーニー、レベッカ・ホーン、マリーナ・アブラモヴィッチ、ヴィト・アコンチらとともに出品した。
その後、2002-2003年頃には、名古屋の大須と矢場町の中間地点あたりに期間限定のアーティストランスペース「Culture Medium」を2年間、開設した。
2004年の「六本木クロッシング」(森美術館)、2008年の釜山ビエンナーレ(釜山市立美術館)に作品を出して以後は発表せず、釜山から12年後の2020年に愛知芸術文化センターのアートスペースXで自主企画の個展を開いた。
今回は、4年ぶりの個展となる。作品を発表しない時期も制作は続けていた。1990年代に加藤さんが制作した彫刻作品については、アートスペースXでの個展レビューにも書いた。
今回の個展につなげるかたちで言えば、加藤さんは、1990年代の大理石彫刻にしても、今回展示した絵画や、AIを使った写真作品にしても、一貫して「芸術とは何か」をはじめ、美術や絵画、性、日本などの概念を批評的、遡求的に捉えているように思う。
真空/Vacuum The Art History
今回の展示では、作品において絵画的な空間ができているかどうかという問いを基に制作されている。作品は大きく3つに分けられる。
1つは、2020年の個展でも展示した、航空自衛隊小牧基地で撮影した戦闘機の写真シリーズ「Komaki Airport」である。
500ミリの望遠レンズで着陸間際を捉えた戦闘機F-35Aは、イメージが拡大され、背景がニュートラルであることもあって、どこか玩具のようにも見える。
加藤さんは、飛行する戦闘機を追うように反射神経でカメラを瞬時に移動させながら指でシャッターを押して連写した。
つまり、このイメージは静的に見えながら、極めて身体的に捉えたものである。戦闘機から至近距離で、耳をつんざく轟音とともに連写された現場の臨場感を抑えるように、プリントでは、ブレ、ボケをAIで処理して整えているのだ。
次は油絵作品で、2020年の個展のときと同様、タイトルは、全て「Initial」になっている。主に2010年代半ばからコロナ禍まで続けたシリーズである。
マスキングをして、ドットを展開させるなど、身体性を出しながらも、やはり抑制がきいていて、勢いで(感情的、欲望的、自我的に)描いてはいない。これは芸術に対する加藤さんの考えでもある。それゆえ、その精妙さにおいて絵画空間が原初的、原理的に志向されているとも言える。
最後の1つは、「Automatism」と題されたAIのシリーズである。今回の展示のメインは、このシリーズで、他の2つの連作は、「Automatism」との対比関係にあるとも言える。
例えば、油彩の絵画や、戦闘機の写真に対して、AIによって制作されたこの作品には身体性が介入していない。絵画はもちろん、戦闘機の写真シリーズ「Komaki Airport」が撮影時の反射神経というかたちの身体性を宿しているのとは、対照的なのである。
この「Automatism」シリーズは、美術史をテーマにしている。AIを、これまでの芸術概念を撹乱する新しい技術の介入(侵略者)として捉えつつ、加藤さんがAIの「非-身体性」とコミュニケーションをしている。
AIを追い込みながら、AIの可能性を引き出すような対話によって、美術史に関わる主題ごとのイメージを作らせていているといえばいいだろうか。
そこでは、AIが加藤さんの発信したSNSの情報を読んでいるのではないかという想定もはらまれている。
その最後のイメージには、長くパリを中心にヨーロッパで活動しながら、1987年に帰国し、母校・東京芸術大学の教授に就任した「工藤哲巳」がある。加藤さんは、その晩年に芸大で工藤哲巳に師事した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)