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岩田清志郎個展「ネット漂流物の焚き火」ギャラリ想(名古屋)で2024年7月25日-8月4日

ギャラリ想(名古屋) 2024年7月25日~8月4日

岩田清志郎

 岩田清志郎さんは2002年、愛知県生まれ。2021年、愛知県立芸術大学美術学部油画專攻に入学し、現在、4年の若手である。いくつかの公募展に応募し、入選している。会場に足を運ぶと、画力があることがうかがえる。

 画廊の1、2階に作品を展示していて、1階は、2022年から2023年にかけて制作した「人間」を中心とした作品、2階は、それより新しい時期の、よりチャレンジングな作品である。

 1階は、「人間」をモチーフにしたまとまりのある作品群が確認でき、2階は、作家の興味や構想をイメージした多様な作品、という言い方もできるだろう。

 まだ、いろいろなことを試している段階なのだろうが、それでも、絵画の正統性をしっかりと踏まえた描画と今後の可能性が見て取れる。

「ネット漂流物の焚き火」 2024年

 1階正面の壁にある2023年の作品「universe」は、現実とも虚構とも分からない、不思議な感覚の作品である。

 中央に座ってポーズをとる男性は、服を着ているものの、生命力は感じさせないマネキンのようである。この男性像の背後には3体の彫像が描かれている。1体は立ち、2体は浮遊する。

 この、マネキンあるいは彫像がある光景は、イメージ自体は明瞭である一方、不確かな感覚がにじみ、マネキンや彫像より、むしろ、背後の青い床と赤い模様の壁がリアルで最も実在感があるという転倒がある。いわば、世界の相対性、存在のあり方の相対性を感じさせる空間である。

 同様の「転倒」の感覚は、「宇宙飛行士と壁」と題された2つの作品でも想起される。

 1つは、歩いている宇宙飛行士だが、先ほど触れた「universe」と同様、人間の存在感が希薄であるのに対して、やはり床面と壁が奇妙なほどにリアルである。ありていに言えば、そもそも、宇宙飛行士がこの室内空間にいることが、アンバランスである。

 また、もう1つは、宇宙飛行士が宙に浮いていて、やはり非現実的であるのに対し、背後の壁のくすんだ肌理がニュアンス豊かに描かれる。宇宙に漂う人間像の虚構性と、壁のリアルさが分離、転倒するように引き裂かれながら、同じ空間にあるのである。

 そして、これらの絵画では、影が印象づけられることも付け加えたい。特に、宇宙飛行士が浮いている作品では、その斜め下にある影の存在感が強い。

 影ということで言えば、「yoga」「floating」など、人体が浮いているイメージを描いた作品でも、影が重要な役割を担っている。

 デジタルネイティブのZ世代である作家が、インターネット上を漂う画像とリアルの関係、虚実の転倒をテーマとした、と言えば、いささか図式的すぎるが、そこから独自のイメージをつくろうと、試行錯誤を重ねた、さまざまな作品にとても力を感じるというのが筆者の感想である。

 そして岩田さんの作品を見ていると、頭の中で理屈をこねるより、絵画を「描くこと」で思考している賢明さがよく伝わってくる。

 つまり、コンプセプトや主張から入っているのではなく、さらっと描いていながら、惹きつけるものがある。そこがクールであり、センスである。

 今回、マネキンや、友人が作ってくれた紙粘土の「自分」を描いた作品も出品しているが、これらでは、人間の形をしていながら人間でないものの、存在することの「きわ」が探求されているようにも思う。

 それは、インターネットをはじめ、メディアを介してみる宇宙飛行士の宇宙での虚空の感覚に近いものかもしれない。

 つまり、ないときの実と、あるときの虚のきわを詰めていく作業である。非日常と日常のきわ、と言ってもいいかもしれない。

 現代は、テクノロジーの進歩によって、人間と人間、人間と外界の関係、感覚と意識、認識、精神のあり方、ひいては人間が生きること自体が混沌としている時代である。

 作家の2024年の新作の1つ、「超現実を描くためのドローイング(BIG)」にも危機と混迷に対する、この作家ならでは応答を感じる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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