GALLERY IDF(名古屋) 2022年4月9~24日
伊藤香奈
伊藤香奈さんは1978年、愛知県生まれ。2001年、名古屋造形芸術大学洋画コース卒業。現在は東京を拠点に活動している。
GALLERY IDFと山画廊(三重県四日市市)、 ギャラリーゴトウ (東京)で、継続的に個展を開催。
イラストなど、さまざまなコンテストで入賞しているほか、2015年には、ホテルの客室をアートで装飾するArtist in Hotel (パークホテル東京)のプロジェクトに参加している。
伊藤香奈さんのことは20年ほど前から知っていたが、作品をじっくり見るのは初めてである。
イラストや絵本の挿画に近いものを感じ、積極的に見なかったこともあるが、今回、伊藤さんの話を聴き、それが狭量な見方であることを知った。
伊藤さんはイラスト、絵本の原画から、今回のような絵画作品まで幅広いレンジで「絵」を捉えていて、そこにおおらかさとともに絵に対する本質的なものを感じた。
2022年 - 穏やかでいる –
比較的小さい作品は、木製パネルに直接、水分量の多いアクリル絵具を浸透させ、大きめの作品ではキャンバスを使っている。
繊細な画面には、植物や人物、鳥、星などがさまざまなスケール感で優しく描かれているが、それらはあらかじめ決めたイメージ(図)を地の上に描くという方法ではない。
筆者は少々驚いたのだが、伊藤さんは多様な色彩を薄く何層にも塗り重ねることで地をつくっていき、そのプロセスの中で見えてくる形象らしきものが何かに見えるということをきっかけに図に変換していく。
一見、メルヘンの世界に近い作品なので、筆者はイメージの全体像を考えてから描くのだと思い込んでいたのである。
実はそうではなく、支持体と対話し、色のおおよそのイメージは決めながらも、表したいというより、むしろ絵具の層から現れてくるものが作品になっている。
乾きが早いアクリル絵具を薄く重ねていく中で現れるものがイメージとして浮上してくるわけである。
絵具が重ねられるのは、図ではなく、地である。地を塗り重ねる中で、そこに浮かぶ形らしきものを捉え、その周囲にさらにレイヤーを重ねることで形にしていく。
言うなれば、地のほうが絵具のレイヤーが多く、そのネガによって、絵具の層の少ない部分、つまり、塗り残しの部分が花や生き物などになっていく。
図が地であって、地が図であるという言い方もできる。
つまり、私たちが図として見る花や生き物を、ポジとして描くのではなく、ネガを薄く塗り重ねることで、しみのような、その一部が何かに見えることを端緒に、その形象の現れを待って、モチーフしている。
例えば、最初から微細な花や、小さな鳥を描こうと思って描くのではなく、それはあくまで、しみのように見える描き残しがもとになっているのである。
表現をつくるというよりは、薄くアクリル絵具を塗り重ねる中で現れる形を拾っていき、それを自分の中にあるイメージに置き換えていく。
その意味では、意識より無意識、作意より無作為に近く、どこかシュルレアリスムを想起させるところもある。
だから、彼女の作品には、線がほとんどない。意識的に線を引くのではなく、こう言ってよければ、色彩のしみの集合でしかない。
線がないから、境界がない。伊藤さんの絵は、すべてが溶け合っていて、境界によって対立することがない。
くっきりとした境界をつくることを彼女は避けている。線で領域を決めないことによって、心地よい空間がつくられる。
ゆったりとした空間の中で、おびただしい花や鳥など、伊藤さんの中から生まれてくるイメージが、ふわっと湧き上がるようで、とても穏やかである。
穏やかさの感覚、平和の希求、安らかに生きていきたいという思いは、伊藤さんの中でとても大切なものである。
穏やかさ、すなわち、幸福感を大切に生きることが彼女の本質である。境界で区切られることなく、溶け合って互いに分かち合っている空間。
伊藤さんは、そうした世界、絵に対する姿勢は、自然体で描きたいものを描いていた子供のころの「お絵かき」のときと変わらないと言う。
からこ窯展/しばたあや美
しばたあや美さんは1975年、愛知県生まれ。1999年、愛知県立窯業高等技術専門学校卒業。
しばたあや美さんの陶芸作品も、とても穏やかでかわいい。心がほっこりする。
筆者は、特にお釈迦様(仏陀)の涅槃図をモチーフにした作品に興味をもった。
心穏やかに過ごしたいものである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)