L gallery(名古屋) 2022年4月23日〜5月15日
伊藤秀男
伊藤秀男さんは1950年、愛知県津島市生まれ。1969年、名古屋市立工芸高校デザイン科卒業。1971年、名古屋造形芸術短期大学洋画科卒業。
絵描きであると同時に絵本作家であり、1980年代、90年代はギャルリーユマニテ名古屋などで作品を発表。2000年代以降は、L galleryで個展を開催している。
そのほか、東京や京都など、全国各地で展覧会を開いている。2015年、個展「えということば 伊藤秀男展」が愛知・一宮市三岸節子記念美術館で催された。
『海の夏』(ほるぷ出版)で小学館絵画賞、『けんかのきもち』(ポプラ社)で日本絵本大賞を受けるなど、絵本の分野でも活躍している。
現在は、名古屋市緑区を拠点に制作している。
“秀さんは絵描きだ” 2022年
アクリル絵具と泥絵具あるいは水彩絵具を使い、人生で遭遇したさまざまな場面を描いている。絵本作家らしい、独特のテイストである。
フィクションでなく、事実、実感に基づいた絵画は、いきいきとした臨場感と躍動感に満ち、匂い立つようなその場の雰囲気を感じさせる。
遠近感の出し方も空間把握も伊藤さん流。形もデフォルメしているというより、自然体で伊藤さんがつかみとったという印象である。
コロナ禍などでスケッチ旅行が難しくても、なんでも絵にしてしまうという意気込みなのか、最近は、とことん身近な題材を描いている。
何よりも楽しいのは、伊藤さんがドキュメンタリー、リアリストとしての立ち位置に徹する一方、独自の空間構成と情景の温かさ、ヒューマニティーと抒情、ユーモア、親しみが画面に現れているところだ。
絵本の一コマのような絵ではあるのだが、その作品を見てから、現実の風景を見ると、伊藤さんの目線によるイメージが私たちの眼差しにも憑依するような錯覚を覚える。
伊藤さんは、実際に現地で遭遇した場面のスケッチを基に描いているらしいが、すべてが鮮明な記憶というわけではない。
適度な想像が混ざっていて、その曖昧な部分さえ躊躇することなく思いっきり描いているところが、おおらかさとユーモアにつながっている。
例えば、鳥の脚が人間みたいに曲がっている描写などはご愛嬌というのか、そのほのぼの感に微笑んでしまう。
外国人たちが近所の寺に住み込み、「ベトナム村」のようになった情景も、優しい目線で描かれている。
プーチンのロシアによるウクライナ軍事侵攻を受け、1998年に伊藤さんが参加した「地球はひとつ アートによる世界人権宣言」(アムネスティ・インターナショナル日本支部編)のポスター原画「西表島のおばあさんの家」も特別出品されている。
2019年のあいちトリエンナーレで見かけたアーティストやお客さんの肖像も小品ながら、人間味にあふれている。
日常を一生懸命生きることを大切に、この世界を優しく捉えている。その姿勢に共感できる作品である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)