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石松丈佳個展 織部亭(愛知県一宮市)5月7-29日

石松丈佳

 石松丈佳さんは1964年、三重県伊勢市生まれ。1988年、名古屋芸術大学美術学部デザイン科造形実験コース卒業。1991年、武蔵野美術大学大学院造形研究専攻修了。

 現在は、名古屋工業大学大学院工学研究科社会工学専攻の教授を務めている。

石松丈佳

 1990年代後半から、風鈴など環境の変化を感知する造形に興味をもち、「環境感知器」という名称で制作。各地でワークショップを展開してきた。

 「越後妻有 大地の芸術祭」に継続的に参加している。

2022年 織部亭

 石松さんの作品は、これまでも何度か見る機会があったが、デザイン的な要素が強いこともあって、筆者としては表面的に捉えがちなところもあった。

 今回、会場に置かれていたパンフレットに書かれていた石松さんの考え、すなわち、「環境」とは、自分やその他の生物と周りが相互作用することで成立する、そのインタラクティブな関係に「造形」が介在することで、何気ない日常が豊かになる、という言葉から、作品に対して、もう少し踏み込むことができた。

 石松さんは、造形を私たちの内界と外界との関係を豊かにするものとして捉えている。

石松丈佳

 石松さんの作品は、シンプルなものだが、風に反応して、とても繊細な動きを見せる。

 そのための造形をとても丁寧に考え抜いている。つつましく、かわいらしく、おおよそ、どこに置いてもなじむ形である。

 ギャラリーでは、風は人工的なものにならざるをえないが、それでも、風によるオブジェの動きを見ていると、実に細やかである。

石松丈佳

 そのことを意識すると、普段、忙しい時間に支配されて失っていた外界との感覚のインターフェイスが呼び覚まされるようである。

 風とは、空気が揺れ動く現象だが、それが自分の内界とつながるような感覚である。

 石松さんの作品は、風鈴と同様、できるだけ自然の風の揺らぎがあるほうが、より気持ちもゆったりして、外界との一体化を意識できる。

石松丈佳

 越後妻有でのプロジェクトに長年参加しているのもうなずける。造形物の小さな動きを通じて、世界の豊かさ、その世界に包まれて存在しているつながり、自然と生命の揺らぎと内界の揺らぎの関係、その調和を知るのである。

 そう考えると、普段、社会の中で、意味や解釈に振り回されている日常から回復し、流れるように、あるがままに、すべての境界がなくなった感覚で、みずみずしい世界に自分もいることが素直に受け止められる。

 目に見えない、自分を支えてくれている多くのものを感知する。その意味で、石松さんの作品は「私」の存在にも関わる。 

石松丈佳

 近代的な、強い自己が他をコントロールするのではなく、世界と和解し、環境へと自分を開いていくことに通じる。

 風を感じるとは、そういう感覚と重なるところがある。それは、生活すること、生きることの回復でもある。

 筆者がかつて石松さんの作品に気づかなかったのは、「造形」がもつそういう働きである。

石松丈佳

 大きな流れ、さまざま事象の現れの中で、自分という存在も境界なく漂っている、そして、そこに確かに「自分」もいるという感覚である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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