愛知県美術館2021年度第1期コレクション展
名古屋・栄の愛知県美術館での展覧会「トライアローグ 横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」(2021年4月23日〜6月27日)と同時開催の2021年度第1期コレクション展が充実している。
この記事では、その中から「特集 石田尚志」を紹介する。
特集 石田尚志
石田尚志さんは1972年東京生まれの映像作家・画家。ドローイング・アニメーションの手法で、ダイナミズム豊かな映像や映像インスタレーションを展開する。
既に豊富なキャリアを有するが、愛知とは、2001年、「身体」をテーマとした愛知芸術文化センターオリジナル映像作品の第10弾として制作された「フーガの技法」で縁が深い。筆者も、そのときに石田さんの存在を知った。
石田さんについては、2009年に愛知・豊田市美術館であった展示の際のアーティストトークを詳述した記事「豊田市美術館 石田尚志作品夜間野外上映(2009年11月8〜15日)+アーティストトーク(8日)」も参照してほしい。
今回は、「フーガの技法」(2001年)、映像インスタレーションの「3つの部屋」(2010年)、床面に投影した「渦巻く光」(2015年)の3作品を展示した。愛知県美術館の23メートル四方という広い展示室に配し、見応えがある。
大きなスクリーンで展開する映像の運動性、光と音がそれぞれの作品として1つの世界を開示するとともに、3つの展示ブロックが明確に遮断されることなく、相互に浸透しあい、新たな映像体験に出合わせる。
そして、石田さんの肩書きが、「映像作家・画家」となっていることからも分かるように、絵画を出発点に映像へと進んだ作家であることが体感できる展示にもなっている。
「豊田市美術館 石田尚志作品夜間野外上映(2009年11月8〜15日)+アーティストトーク(8日)」では、石田さん自身が幼い頃からの絵画制作について語っている。
つまり、絵画からドローイング・パフォーマンス、映像という展開である。絵画が、スティルという静止画像の集積であるムービーになることで新たな命を注ぎ込まれ、それが運動、音、光、空間としてのダイナミズムを生む。
3つの部屋
「3つの部屋」は、3つのスクリーンによるインスタレーションである。石田さんは、同じ1つの部屋で、キャンバスや壁に即興的に描いたパフォーマンスのプロセスを、3通りの異なる動画として作品にしている。
つまり、同じ空間で実践した3種類の「描く行為」の記録映像として撮影・編集されている。
それぞれの映像は、同じ空間で撮られたはずなのに、全く異なる印象を与える。あたかも映像の中の質的な空間が遷移したような手触りと動感の違いである。
それらは、それぞれの出来事、絵画の生成、身体性、音楽、光と影、撮影の手法に関わる微分的な差異(局所的な変化)が生み出す積分的な空間の変容(時間的な集積の変化)として、強く感覚的に働きかける。
それぞれの映像は「無音の部屋または暗くなる部屋」「音楽のある部屋」「窓」という3つのタイトルが付いている。3つの映像は、行為と時間、その複製的な出来事が全く異なる映像、空間の変容を生み出すことを物語っている。
また、会場には、各映像の中でキャンバスに描かれた3点の絵画も展示された。
ぞれぞれの絵画は、パフォーマンスの中で描かれた痕跡であるとともに、物質と非物質、瞬間と連続する時間、光と影、絵画とイメージ、映像、スティルとムービー、身体性と痕跡など、さまざま関係性を喚起させる。
渦巻く光
この作品は今回、床面に投影され、靴を脱げば、映像の上を歩くこともできる。
映像の中のダイナミックな動きが鑑賞者の身体に作用し、揺さぶられるように感覚を刺激される。
ガラスの板を回転させながら、その上に描画をほどこし、それをコマ撮りで撮影・編集した。
ドローイング・アニメーションという手法、床面という上映場所、正方形というスクリーンの形などによって、光や色彩、動きが直接的に体に働きかけてくる。
フーガの技法
バロック音楽のJ・S・ バッハの同題曲をモチーフとした映像化の試みである。オリジナル映像作品のシリーズでの初めての抽象アニメーションでもあった。
複雑な構造をもつ「フーガの技法」を緻密に解読し、線や面、動き、映像に変換していった感覚がスリリングに迫ってくる。
音楽的なるものと時間性、抽象性、ダイナミズムと多元性・・・。
静止画では描ききれないもの、回転や螺旋運動、鑑賞者が映像空間に入り込むような入れ子構造的な感覚、複雑な遠近感などへの欲望が見て取れる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)