なうふ現代(岐阜市) 2022年2月3〜11日
伊村俊見
伊村俊見さんは1961年、大阪府生まれ。金沢美術工芸大彫刻科卒業。多治見工業高校窯業専攻科修了。
国際陶磁器展美濃陶芸部門グランプリ、信楽陶芸展大賞、長三賞陶芸展長三賞などを受賞。「非情のオブジェ—現代工芸の11人」(2004年、東京国立近代美術館工芸館)など、美術館の企画展にも選ばれている。
岐阜・多治見市文化工房ギャラリーヴォイスで開かれた2021年のグループ展「美濃からの発信 やきものの現在」では、これまでの作品展開について詳しく語った。翌年の2022年のなうふ現代での個展レビューも参照。
大学で彫刻を学んだ伊村さんは、彫刻の量塊性に対し、 陶芸における内部の空洞に意識的である。それがオブジェをつくるとき、重要な要素となって形が展開していくのである。
初期の「虚」のシリーズから始まり、オブジェの外部 / 内部の概念を捉え返し、土が延びることでつくられる「延」、その後の「覆」、袋状に閉じた形としての「嚢」へと、シリーズを展開させ、さらに軽やかな生動感、浮遊感を備えた「揺」シリーズが続いた。
今回の個展は、作品集の出版記念の展示である。木箱に、作品集と2022年の個展で初めて見せたフラットな矩形の作品シリーズを1点ずつ収めている。
作品集には、茨城県陶芸美術館の館長、金子賢治さん、岐阜県美術館副館長兼学芸部長の正村美里さん、京都国立近代美術館主任研究員の大長智広さんが論考を寄せている。
出版記念展 2024年
矩形といっても、角がすっかり取れ、ほとんど楕円に近いものもある。タタラ成形による2つの板状の土を重ね、縁を手で整えていくという作り方である。
これらの作品は、個々の作品であるとともに、複数を壁に反復させたり、あるいは床に水平に置いたりして、インスタレーション的に見せる作品でもある。
同じ黒といっても、焼成する際の温度差で作品の色味がかなり異なる。マットな印象のものから金属に近い質感のものまである。焼成前に表面の一部を磨いて模様を出したものもあって、とてもユニークである。
何よりも、厚み、緩やかな起伏、微妙なライン、膨らみや凹みなどによる、それぞれの違いがあって、とても面白いのだ。中には、ルーチョ・フォンタナのように、切れ目のような穴を開けたものもある。
また、縁の丸みの処理が、それぞれ違うこともあって、シンプルでありながら、各作品が全く違う印象を与える。ミニマリズム的な同質なるものを反復させることで、それぞれの差異があらわになるところが面白い。
視線を吸い込むような漆黒の作品が、黒色の奥やその向こう側への想像力を喚起するのだが、切れ目のような穴を含めて、それぞれの作品の差異によって全く異なる世界を見せてくれるようである。
二次元と三次元、平面と立体、物体と空間、見えるものと、見えないもの。それらのあわいにあるような感覚があって、シンプルながら奥深い作品である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)