ギャラリーA・C・S(名古屋) 2022年8月20日 〜9月3日
市橋安治
市橋安治さんは1948年、岐阜県羽島市出身。2019年6月に急逝された。本展は没後3年の回顧的な展示となる。
8月20日が市橋さんの誕生日だったこともあり、生前から、妻でA・C・Sの画廊主でもある佐藤文子さんが夏のお盆休みの時期に市橋さんの展覧会を組みこんでいた。
2019年に他界され、その年からは、テーマを決めた回顧展シリーズのようなかたちとなって、本年に至る。没後の展示としては、4回目である。
2021年の没後2年展、2020年の没後1年展、2019年の「市橋安治 初期の版画 1973〜76 市橋さんを偲んで」も参照してほしい。
そうすることで、市橋さんの2000年代前半までの画歴をたどれる。
没後3年-2000年代の表現-油彩、銅版画
8月恒例となった没後の展示は、ほぼ古いものから順に行われている。
2019年はスペインに渡った1970年代前半の作品、2020年は滞欧期の後半から1976年の帰国を挟んで83年頃までのカラーエッチング、ドローイングと油彩、2021年は1990年代から2000年ごろまでの「顔」をモチーフにした作品--という流れである。
今回は、その後の2001年から2004年ごろの油絵が中心である。この頃、市橋さんは、支持体をキャンバスから粗麻(精製してない麻糸)の布に変えている。
重厚な素材感を厚塗りの絵具で消し、イリュージョンとしての「絵画」を立ち上げつつ、そうしたイメージよりもなお物質感を強く存在させる作品を描こうとしていたようである。
当時は、油絵を描いてから、そのイメージをもとに銅版画を制作していた。今回の展示でも、印象が強いのは油絵である。
モチーフは、裸電球、シャワー、水道の蛇口、椅子など、日常の生活空間にあるものが中心。女性のトルソも目立つ。
モノクロームに近い、黒と白を基調とした色彩で、物を記号化して絵画空間を構成しているのが特長である。
日常的なモチーフをシンプルに描きながら、絵具と支持体の物質性、イメージ(イリュージョン)の拮抗する、強い作品を志向していたことが窺える。
銅版画を含め、共通するモチーフが繰り返し現れている。
市橋さんが、1970年代以降、最も影響を受けた画家、ゴヤの『砂に埋もれる犬』を想起させるイメージもある。
この時期の市橋さんの油彩画への思いが現れた、力強い展示となっている。
最後までお読みいただきありがとうございます。(井上昇治)