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IAMAS ARTIST FILE 10 繭/COCOON:技術から思考するエコロジー 岐阜県美術館で2025年1月10日-3月9日に開催

クワクボリョウタ 《風景と映像》2016年 撮影:椎木静寧 写真提供:宇都宮美術館

技術からエコロジーを考える

 岐阜県美術館で2025年1月10日〜3月9日、「IAMAS ARTIST FILE 10 繭/COCOON:技術から思考するエコロジー」が開催される。

 5人の作家の作品を通して、技術を身体や道具の延長と見なしてきた近代的な人間中心主義を見直し、蝶が繭の中で自らを変化させるように、技術が人間だけのものでないと気付くことで、世界に対してより深く共感し、世界との関わりや生きることそのものを捉え直していく。

 こうした考え方は、喫緊の課題である今日のエコロジー問題を乗り越えるための新たな視座を与えてくれるだろう。

 ヒントになっているのは、イタリア出身の哲学者コッチャが『メタモルフォーゼの哲学』の中で唱えた「技術についての新たな考え」。

  芸術もまた、生きることと共にある「技術」である。本展では、多様なアプローチを通じて、その可能性を模索する。

GengoRaw(石橋友也+新倉健人) 《バベルのランドスケープ》 2023年

開催概要

展覧会名:IAMAS ARTIST FILE 10 繭/COCOON:技術から思考するエコロジー
会  場:岐阜県美術館 展示室2(岐阜市宇佐4-1-22)
会  期:2025年1月10日(金)~3月9日(日)10:00~18:00
休 館 日:毎週月曜日(祝・休日の場合は翌平日)
夜間開館:1月17日(金)、2月21日(金)は20:00まで開場
※展示室の入場は閉館の30分前まで
料  金:一般340(280)円、大学生220(160)円、高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、特定医療費(指定難病)受給者証の交付を受けている方およびその付き添いの方(1名まで)は無料
主  催:岐阜県美術館、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]

見どころ

1.新たな視点ー芸術は、繭である
 人類が環境に残す痕が看過できない状況にある今、本展では、5人の作家の豊かな芸術表現を通し、人間の道具 / 身体の器官投影と見做されてきた「近代技術」を再考する。
 本展タイトルは、哲学者E. コッチャの著作にヒントを得ている。テクノロジーについての近代的な考えを覆し、「繭」を、あらゆる生が自らを変容させ、構築する契機・わざと捉えるコッチャの思想を発展させ、芸術が技術と再び結びついたとき、芸術は繭となり、生命や個を孵化させると捉える。
2.作家と作品

 ジャン=ルイ・ボワシエ《(digital) Soba Choko》2019年- ミクストメディア

 フランスのメディアアーティスト、ジャン=ルイ・ボワシエは、ライフワークであるそば猪口の収集をもとに、日本の伝統であるそば猪口に関する実験的なアプローチを行う。
 クワクボリョウタは、代表作「LOST 」シリーズを、岐阜県美術館で初展示。⻄脇直毅、florian gadenne + miki okubo 、石橋友也も各々のシグネチャー・ワークを発展させ、新作を発表する。
3.連携事業IAMAS ARTIST FILE ならではのテーマ
 先端的なアーティストを輩出する情報科学芸術大学院大学[IAMAS ]と岐阜県美術館の連携事業で、教員や院生・卒業生らの作品を紹介してきたIAMAS ARTIST FILE 。記念すべき10回目として、科学的知性と芸術的感性の融合を提示する。

作家略歴

ジャン=ルイ・ボワシエ Jean Louis BOISSIER (1945-)

 パリ第8大学名誉教授。1980年代からメディアアートの分野で、アーティスト、研究者、キュレーターとして活動。1997年に IAMASで実施したワークショップをはじめとし、IAMAS教員や学生と数多くの協働歴がある。

 ルソーの著作の解釈やモノの生と記憶を扱う作品を制作。主著に『L’écran comme mobile』など。アートにインタラクティブ性を導入した先駆者の一人として、80年代以降に普及したニューメディアを手段に新たな芸術体験を追求してきた。

 本展では「蕎麦猪口」という日本的な器について、その文化性・芸術性・技術性を問うプロジェクト《(digital) Soba Choko 》の研究成果を展示する。

 タイトルの「digital 」は「数」と「指」に関わる両義的な意味をもつ。本作は、このオブジェが伝統的に人々の手技による陶器として作られると同時に、その截頭錐体せっとうすいたい の寸法が安定した比率(高さ:底辺:幅=6:6:8 )をもつことに着目する。

 わたしたちが「技術」と呼ぶものー「テクノロジー」と工芸的な技芸―は、その根源において、ものづくりにいかに関わるのか。

クワクボリョウタ KUWAKUBO Ryota (1971-)

 IAMAS教授。電子回路を素材とした「デバイス・アート」の代表作に《ビットマン》(1998)、《PLX 》(2000)、《ニコダマ》(2010)などがある。

 2010年、《10番目の感傷(点・線・面)》で第14回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞。光と影による内的な体験を促すインスタレーションを制作している。パーフェクトロンとして「デザインあ展」(2018)の展示構成などを手がける。

 2010年の《10番目の感傷(点・線・面)》に端を発する光と影による表現は、《Lost》シリーズとして展開し、これまで世界中で実現されてきた。日用品や鉄道模型によって形作られるこのシリーズは、作家による特定のアイディアに依拠しながら、その作品群は唯一の形にとどまらず、無数のヴァリアント[異形]が展開されてきた。

 あるアイディアによって作られた作品は、作品をとりまく環境そのものをダイナミックに変化させ、それ自身もまた変容することをやめない。

 展覧会のエコロジーとは何か、作品を生態学的に探求するとはいかなることか。クワクボは、本展をこうした問いへの応答の契機と解釈し、ヴァリエーションの制作に挑む。

西脇直毅 NISHIWAKI Naoki (1977-)

西脇直毅 《赤色のへびとネコ》2023年 77×108.7cm ケント紙にボールペン、カラーボールペン

 2007年、IAMAS修了。ネコや縄目の文様が無限に増殖し画面を埋め尽くすような、精緻な作品に取り組む。

 国際芸術コンペティション「アートオリンピア」審査員特別賞(建畠晢)受賞(2015)。個展に「超絶のボールペン画無数のネコたち」(天満屋岡山本店・福山店、2020)、「意気猫々」(ギャルリー宮脇、京都、2021)、吉村大星との二人展に「ミクロの猫と巨大な猫」(瀬戸内市立美術館、2020)など。国際交流基金海外巡回展「超絶技巧の日本」出品中(2018 -)。

 西脇直毅の絵画世界では、微小なネコが増殖し、数えきれないほど集まって流れを成す。ネコは異なる動物と出会い、あるときは渦を巻き青海波のような文様と有機的に接続しながら、紙面を埋め尽くす。

 こうしたアクションは、人類の伝統的な表現としての「文様」の生成になぞらえることができる。文様は特定の意味を帯びた単なる装飾にあらず、世界とわたしたちを直接的に結びつける。

 2024年から新しく取り組む《刺青の女》シリーズでは、西脇は使い慣れたボールペンのグリップを離れ、液晶タブレットとペンを用いてデジタルの皮膚に文様をほどこす。

 「文身」(イレズミ)が身体を世界から聖別するものであったように、現代のテクノロジーを通じて描かれる西脇の文様もまた、世界の裂け目を垣間見せる「わざ」である。

florian gadenne + miki okubo (1987-, 1984-)

 florian gadenne + miki okubo 《L’Arbre-Monde》より部分 2024年 水彩紙に墨・水彩絵具・ガッシュ

 美術家のフロリアン・ガデンと、美学・芸術学を研究領域とする IAMAS准教授の大久保美紀によるユニット。生態系の複雑性に着目し、エコロジー問題に対峙する表現活動を続ける。

 第10回500m美術館賞グランプリ賞(2023)、清流の国ぎふ芸術祭Art Award in the CUBE 2023入選。ガデンは第27 回岡本太郎現代芸術賞特別賞受賞(2024)。大久保は西枝財団 2024 年度「瑞雲庵における若手創造者支援プログラム」に採択され、展覧会「遍在、不死、メタモルフォーゼ」を企画。

 ガデンと大久保は、自身を取り巻く世界との関係を新しく結び直すための糸口を模索する。非人間存在との関係を再考するブリュノ・ラトゥール、技術の人間固有性から脱却するエマヌエーレ・コッチャ、木々を見る慣習的な視点を覆すフランシス・アレを参照しながら、エコロジー問題への対峙を軸に、日常を新しく生きる芸術的アプローチを追究する。

 その試みは、生態系の自生に関する実験的な生物彫刻、生の関係性としての「食」をめぐる表現、生態系における複雑な関係性を多角的に再構成した絵画作品として展開されてきた。

 本展では木々の世界をめぐるインスタレーションに取り組み、わたしたちと非人間存在の「生の技術」を思考する。

石橋友也 ISHIBASHI Tomoya (1990-)

 2023年、IAMAS博士後期課程入学。大学では生物学を学ぶ。現代的な科学やテクノロジーの視点から、品種改良種や人工知能、文字などの自然と人為の境界に位置する対象の性質、構造、来歴に迫る実践を行う。

 石橋友也 《金魚解放運動》 2012年-

 2012年より早稲田大学生命美学プラットフォーム“ に所属。現在は生物学にまつわる芸術の研究と制作を行う。主な受賞に文化庁メディア芸術祭優秀賞(2021)、第25回岡本太郎現代芸術賞入選(2022)など。

 人類が1700 年かけて愛玩用に造形してきた金魚を祖先であるフナの姿に戻すというチャレンジ、都市や森のランドスケープのなかに見出される言語の幾何学的パターンを人工知能によって再認するというアイディア、川で拾得した廃棄物から制作した顕微鏡を用いて川の有機的環境を覗き見るというアクション。

 石橋のアプローチは、わたしたち人間とそれを取り巻く環境との関係や、わたしたちが世界を生きる手段である技術について、思考を新たにするよう挑発する。

 品種改良によって作られた種は自然の一部たりうるのか、人工物と自然物のあいだに本質的な差異はあるのか、〈ものを作る〉とはいかなる営為なのかを問う。

情報科学芸術大学院大学[IAMAS ]とI AMAS ARTIST FILE

 情報科学芸術大学院大学[IAMAS ]は、科学的知性と芸術的感性の融合を目指した学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、未来社会の新しいあり方を創造的に開拓する「高度な表現者」を養成するとともに、学術文化の向上及び地域の振興に寄与することを目的に、岐阜県が2001 年に開学した大学院大学。

 情報科学芸術大学院大学[IAMAS]と岐阜県美術館との連携事業「IAMAS ARTIST FILE」は2013年に始まり、本展で第10回目。これまで開催した展覧会は以下のとおり。

2013年 #01 三輪眞弘 「逆シミュレーション音楽の世界」
2014年 #02 前田真二郎・齋藤正和 「記録と行為 映像表現の現在形」
2015年 #03 BEACONBEACON(伊藤高志・稲垣貴士・KOSUGIKOSUGI+ANDO ・吉岡洋)「LOOK UP 」
2016年 #04 ALIMO ・若見ありさ 「描く・動く 芸術とアニメーション」
2017年 #05 前林明次 「場所をつくる旅」
2020年 #06 クワクボリョウタ・会田大也 「みるこころみるかえりみる」
2021年 #07 木村悟之・萩原健一・堀井哲史 「ウィデオー からだと情報」
2022年 #08 福島諭 「記譜、そして、呼吸する時間」
2023年 #09〈方法主義芸術〉ー規則・解釈・(反)身体

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