GALLERY CAPTIONからのメールより
GALLERY CAPTION(岐阜市)が、2020年5月下旬に始めた郵便を介したプロジェクト「envelope as a door」の第6弾、寺田就子さんの作品受け付けを2020年10月31日午前10時から始める。
封筒で手紙が届いたとき、開封するのをためらうことが、ごく稀にあります。
ハサミを入れるのがもったいなかったり、内容を確認するのが怖かったり、ただの気まぐれだったり。
開けてみるといったい何にためらっていたのかと不思議な気持ちになりますが、封をされた手紙には手を出せない何かを感じます。
もしも気が向いたら、封を開けてみるのもいいかもしれません。
寺田就子
第6弾は、6月に続き、寺田就子さんが再度、登場。
ガラスやプラスチック、鏡など、反射反映素材と既製品とを組み合わせた作品で知られるが、大学では版画を専攻していた。
銅板のひんやりした感触と、細い線が表現できることに惹かれて、版画を選んだとか。
当時も、版を刷るだけでなく、鏡や銅板、シャーレなどのガラス素材を組み合わせて制作した。寺田さんにとって版画とは、虚実が隣り合う鏡の中のような世界。そこに、作家の一貫した世界観を見ることができる。
「わたし、手紙を開けるのがこわいんです」。
新型コロナウイルスによる非常事態宣言が出され、画廊がenvelope as a doorプロジェクトの開始に向け、準備をしていた5月、寺田さんが、思いがけない言葉を発した。
封筒が運んでくるのは楽しい報せばかりではない。早く開きたい半面、ためらいが生じることもある。
封を開けるときのひとときのそんな逡巡を、そっと心に留め置くような作品である。
「開けられない手紙」をテーマにした今回の作品は4点。
今の状態を壊すことへの戸惑いと、その先にある未知の何かと出合うことへの恐れ。「開けられない手紙」の薄い透写紙の封筒は何を隠し、何を顕わにするのか。
外出がままならず、素材が調達できなかったために見送られた当初のプランが、実現した。
寺田就子 『だれかが封を切る』
銅板にエッチングとドライポイント、紙にインクジェット出力、プラスチック、封筒、色鉛筆
各/ 16.2×11.4(cm) 2020年 各/ 15,000円(税込、送料込)
envelope as a doorは、ギャラリーと作家、そして封筒を受け取る人とを結ぶメール・アートのプロジェクト。第1弾は藤本由紀夫さん、第2弾は寺田就子さん、第3弾は大岩オスカールさん、第4弾は木村彩子さん、第5弾は金田実生さんだった。
第7弾以降のラインナップは次の通り。
【vol.7】植村宏木(11月)
【vol.8】中村眞美子(11月)
【vol.9】藤本由紀夫(12月)
新型コロナウイルスの影響で、世界中の人々の生活と健康が脅かされている中で企画された。今後、ポストコロナの新常態の中で、オンラインによるコミュニケーションや、インターネット配信など、新しい生活様式が急速に日常に浸透し、人間が新たな環境でどう生きるか、芸術と人間との関わりはどうなるのかが問われている。
「envelope as a door」は、そんな現在を見据えたプロジェクトである。
90年代の初め、インターネットが話題になり出した頃、私は手紙というものは20世紀中になくなってしまうのではないだろうかと考えていたことを、つい最近思い出した。
直筆で便箋に築かれた世界が折り畳まれ、封筒という二次元ワールドに封印され、世界を旅して、遠い異国の友人のもとに届く。その友人は、封を開けることにより、未知の世界に突然の旅に出る。
そうである。「封筒」とはあの「どこでもドア」と同じものなのである。という事実を、最近世界を騒がせたニュースを見ていて教えられた。
藤本由紀夫 「26 philosophical toys」 2005年
GALLERY CAPTIONのWEBサイトより
「envelope as a door」は、からっぽの封筒をギャラリーの空間に見立て、作家の作品を封書で届ける。ギャラリーの入り口の扉を開けるように、封筒を開くと、そこに作品がある。人が作品と出合い、そこから、さらなる出合いへと導かれる‥‥
GALLERY CAPTIONは、オンライン・ショッピングの仕組みと変わらないと、説明する。それでも、そこには、ギャラリーだからこそできること、作家とギャラリーの真摯なメッセージとともに、美術作品の可能性、人間を豊かにする小さな時間と空間の大切さが提示されているのではないだろうか。
それは、コロナによって世界の見え方、人間の生活と生き方が変容する中で、人間の価値、人間と世界との関わり、過去と現在、未来をつなぐ可能性を問い直す試みでもある。