Lights Gallery(名古屋) 2022年5月13,14,20,21,27,28日
倉地比沙支
倉地比沙支さんは1984年、愛知県立芸術大学美術学部絵画専攻油画卒業。その後、同大学院美術研究科油画専攻修了、同大学院研修生修了。
倉地さんの個展だが、インスタレーションの一部に、ガラスを素材にしたアーティスト、植村宏木さん、写真家の鈴木敦詞さんの作品を含む。
倉地さんと植村さんは2021年、Lights Galleryで2人展をしている。鈴木さんは2022年4月に個展を開いた。
植村さんは2010年、秋田公立美術工芸短期大学(現・秋田公立美術大学)工芸美術学科ガラスコース卒業。名古屋芸術大学大学院などを経て、愛知県で制作している。
2019年の「倉地比沙支展 Crispy ground —伏流水—」、2021年の「知覚の深度 植村宏木、倉地比沙支 ライツギャラリー(名古屋)で6月5日まで」、「不見富嶽八景 ガルリラぺ(名古屋)で6月26日まで」、「金光男|倉地比沙支|山田純嗣 SA・KURA(名古屋)で1月23日まで」も参照。
Crispy River
倉地さんは、さまざまな技法を融合した平面作品で、イメージの力を引き出している。
リトグラフとエッチングを融合したリトエッチングをベースに、パソコンによる加工や、手彩色、線描などの過程を執拗に繰り返すことで生まれる世界である。
近年は、故郷の愛知県扶桑町の木曽川近くの砂地とその下層の伏流水が、イメージの源泉である。
《Crispy》という、パリパリするような乾いた砂地と、波立ち、飛沫を上げる水面のイメージが交差するような世界は、地勢や地層への想像力と倉地さんの原風景がふれあうことで、さまざまに変奏される。
粒立つようなざらついた大地と、触覚性、強さを感じさせる川の流れ。倉地さんの記憶と結びついた砂地と水流は、下層と上層、内と外、運動と静止、乾きと潤い、生と死などさまざまなメタファーになっている。
それらは対立的にあるのではなく、相互に影響しあい、循環し、記憶を呼び覚まし、今とつながっている。
今回は、そうした作品が高さを変えながら、会場の1階と2階に配されているが、植村さんのガラスを使ったインスタレーションや、鈴木さんの写真と響き合うことで新たな想像力を喚起している。
注目すべきは、倉地さんが従来の矩形のパネルではなく、わずかに歪ませた不定形のパネルを使っていることだ。
この歪みの度合いが微妙で、矩形と見紛うほどにわずかにずらしていることで、そこに描かれた水面が、不安定な傾き、蛇行する急流の感覚をもたらす。
倉地さんは、この支持体の形をベン・ニコルソンの銅版画の不定形から引用している。
荒れた水面が醸す不穏な雰囲気は、不定形のパネルによって強まっている。
同時に、今回の作品は、ランダムな黒い線や、引っ掻いた傷のような白い部分など、手描きによる痕跡が目立つこともあって、薄暗い展示会場でインパクトがある。
倉地さんの作品がふと見せるダイナミックな表情は、時間が堆積したような静かな空間の中で、周囲に構成された石や古材、ガラスなどとともに在ることによって、自然の崇高なイメージを際立たせる。
そこに、自然と人間の営みの、のっぴきならない関わりが詩的なあらわれとして立ち込めている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)