ギャラリーA・C・S(名古屋) 2023年5月2〜6日
2022年11月27日に92歳で逝去された愛知県一宮市の画家、後藤泰洋さんの追悼展である。
後藤さんは1930年生まれ。生涯現役を貫き、制作を続けてきた。体が元気なときは、毎回のようにA・C・Sの展覧会に通い、画廊発行のリフレット「ラビスタ」に展覧会評を書いていた。
高齢となり、画廊への訪問回数が減る中で、画廊の呼びかけで会期3日間の個展が開かれるようになった。筆者は2019年の個展を取材している。
そのときは、青色の水性塗料を使って、B紙(模造紙)に筆触をのせたドローイング、新聞紙や展覧会のポスターによるコラージュ作品を発表していた。
ドローイングは、刷毛で、床に置いた模造紙に描いた。空のイメージのようでもある。手が震え、次第に描くことがままならなくなる中、コラージュも手がけるようになった。
作品からは、老いという過酷な現実の中でも、生きることの核に制作を据え、自分がつくるものに、生の痕跡と、生きている自分自身を通して捉えた世界の美しさを映し出そうとする姿勢が見て取れた。
今回の追悼展では、黄色と青色などのドローイングと、コラージュが展示されている。青も良いが、今回は黄の色彩がとても印象に残る。
これらのドローイングは、個々にナンバリングがされているが、展示は、それらをつなぐようにして全体をインスタレーションのようにしている。
別々に描かれたドローイングが1つになって、広がりが感じられる。青色が空だとすると、黄色は光なのかもしれない。生命の恵みとなる光が舞い、たゆとうような空間である。
後藤さんが、生のぎりぎりのところまで制作していた作品である。この筆触の1つ1つが命の瞬間である。筆跡は命の輝き、息づかい、奇跡の刹那である。
筆者が思い出した言葉は、「盲亀浮木」。仏陀は、この言葉で、人間に生まれることのありえないほどの有り難さを説いた。後藤さんは、その有り難さのすべてを大切に使い、最後の最後まで、制作した。
おおらか、のびやかで、自由な空間は、命そのものである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)