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素材転生-Beyond the Material 岐阜県美術館で6月26日まで

 素材を強く意識しながらも、従来の工芸の概念に縛られず、柔軟な発想で制作する美術家8人を紹介する企画展「素材転生-Beyond the Material」が2021年4月24日~6月26日、岐阜県美術館で開催される。
 一 般 1000円、大学生800円、高校生以下無料。

概要

 8人は、 いずれも30、40代。磁土じど鋳込いこみの林茂樹さん、 磁土・色絵金彩の富田美樹子さん、陶の根本裕子さん、刺繡の宮田彩加さん、ガラスの大貫仁美さん、漆の豊海健太さん、鍛金たんきんの塩見亮介さん、和紙のウチダリナである。

 美術、工芸を取り巻く環境が多様化する中、 近年、美術系大学や専門学校で工芸を学んだ世代は、戦後の美術を既に歴史として受容し、 より自由に制作に向かっている。

 用の美から脱したオブジェ、作品の大型化、現代美術との接近、「工芸的造形」、装飾性・・・。8人は、さまざまな工芸と美術の歴史、相克を距離をもって眺め、新たな表現に挑む。

  彼らは、工芸の用途性からの解放のみならず、工芸と美術の枠組みも越境しながら、それでも確かに素材の在り方そのものを問う表現を模索している。

 それは、工芸的素材や古来の技術を今に生かしたハイブリッドな作品ともいえるものである。

 斬新ともいえる8人の作品には、素材の特性から生まれる表現と、その素材ゆえに求められる技法、付随する装飾性など日本美術の特質が作品の根幹に存在している。

林 茂樹 / HAYASHI Shigeki [磁土・鋳込]

林 茂樹 / HAYASHI Shigeki
林 茂樹 / HAYASHI Shigeki

 1972年、岐阜県土岐市に生まれ、静岡県立大学を卒業後、岐阜県立多治見工業高校専攻科でやきものを学ぶ。
 磁土を用い、鋳込の技法により異次元の人物像を創る。膨大な数の型から精密にパ ーツが作られ、組み上げられる。
 スペーススーツの赤ん坊や、バイクにまたがる子供、羽の生えた少年など、ビスクドールのマットな肌に、陶磁器の釉薬ならではの艶やかな色が映える。
 素材の特性が彼の生み出す特異なフィギュアたちに瑞々しい命を吹き込んでいる。

富田 美樹子 / TOMITA Mikiko [磁土・色絵金彩]

富田 美樹子
富田美樹子《始祖の形》2020年

富田 美樹子 / TOMITA Mikiko

 1972年、大阪府枚方市に生まれ、京都市立芸術大学陶磁器専攻卒。
 鋳込と手びねりで成形したボディの上に、万古焼の盛絵もりえの技法にならい、色絵と金彩の釉薬を一粒一粒盛り上げて加飾していく。
 反復作業の果てに創造される濃密な世界は、モスクやパゴダの装飾を連想させる。細胞のように増殖する点や曲線は、宗教的建造物のみならず、遺伝子から生まれる生物や植物、宇宙の法則などからも触発されている。

根本 裕子 / NEMOTO Yuko [陶]

根本 裕子 / NEMOTO Yuko
根本 裕子 / NEMOTO Yuko

 1984年、福島県に生まれ、東北芸術工科大学大学院陶芸領域を修了。
 初期から陶による手びねりの技法で異形のものたちを創造してきた。福島と向き合い、近年は野良犬を造り続けている。彼らは群れを成し、皺が刻まれ、傷を背負って、したたかに生きている。
 作者にとって陶は、痕跡を遺すことで、生きるものへの畏怖と尊厳を表すための不可欠な素材である。

宮田 彩加 / MIYATA Sayaka [刺繍]

宮田 彩加 / MIYATA Sayaka
宮田 彩加 / MIYATA Sayaka

 1985年、京都市に生まれ、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)大学院染織領域を修了。
 最初、手刺繍から始めるが、支持体を伴わない機械刺繍に移行することによって、糸は空間に足跡を刻むこととなる。
 平面に刺繍された動物や植物、骸骨は本体から糸が伸び、別の作品とつながることで関係性を行き来させている。
 自身の頭部や腰椎の MRI 画像を写し込んだ作品は宮田のライフワークであり、ひとつひとつ増えていく軌跡は宮田の未来であり、同時に過去の自分へと向き合う時間でもある。

大貫 仁美 / ONUKI Hitomi [ガラス]

大貫 仁美 / ONUKI Hitomi
大貫 仁美 / ONUKI Hitomi

 1987年、千葉県に生まれ、武蔵野美術大学大学院工芸工業デザイン学科を修了。
 ガラスのキャスト(型成形)の技法を用いて、我々の最も身近にある衣服(シャツや靴下、女性の下着)を型取り、網目やレース、皺をガラスに写し取る。
 個々のパーツは、接着部分に金彩を施すことで、日本が古来、器の修復に用いた金継の技法になぞらえる。
 作者はそれらを「傷」と呼び、その記憶を修復することで次代へと自らを繋ぐ。

豊海 健太 / TOYOUMI Kenta [漆]

豊海 健太
豊海健太《幽 胎 04》2018年

豊海 健太 / TOYOUMI Kenta

 1988年、大阪府に生まれ、金沢美術工芸大学大学院工芸領域漆芸分野で博士号を取得。2020 年から金沢卯辰山工芸工房に勤める。
 漆黒の画面は、鏡面のように研ぎ、磨き上げられることで周囲を写り込ませ、自らの存在をなくしていく。
 なまなものから生まれ固化する漆と、命を生み出して、その役割を終える卵殻は、生と死を同時にはらんでいる。それによって描かれるのは、増殖する細胞によって表現される子宮や精子、骨盤、鹿の骨である。

塩見 亮介 / SHIOMI Ryosuke [鍛金]

塩見 亮介 / SHIOMI Ryosuke
塩見 亮介 / SHIOMI Ryosuke

 1989年、大阪に生まれ、高校までを岐阜市で過ごす。東京藝術大学大学院鍛金専攻を修了。
 学生の頃から鍛金による甲冑を作る。鍛金は銅や鉄、真鍮を金槌で絞り、たがねで叩いて微妙な凹凸を刻んでいくことで、細部を作り上げていく技法である。
 鎧兜をまとう者たちの顔は猛獣や猛禽類、髑髏であり、すべてが自己防衛であると同時に、弱い自分を覆い隠そうとする虚栄の象徴でもあるという。
 全てを自らの手により作り上げる長い工程のなかに、彼の強さが潜む。

ウチダ リナ / UCHIDA Lina [和紙]

ウチダ リナ / UCHIDA Lina
ウチダ リナ / UCHIDA Lina

 1990年、東京に生まれ、千葉で育つ。東京藝術大学ではデザイン科に所属。大学院では染織を専攻しつつも、染めや織りをすることなく、和紙で制作をし続けてきた。
 蛾のはねは、焼き色によって細かな模様が表現される。型に合わせて、薄い和紙をふのりで固めながら、骸骨や人体を作っていく。 
 はかなげで危ういその虚像はしかし、リアルな蛾の存在によって、虚から実へと見る者を引きもどす。

イベント

※定員、参加料、事前申し込みの有無など詳細情報は、岐阜県美術館Web サイトで。

◆作家トーク

アーティストトーク「転生するものたち I」

日 時:令和3年4月24日(土)13:30~15:30
出 演:土生和彦(宮城県美術館学芸員)・林茂樹・豊海健太・塩見亮介(出品作家)
会 場:岐阜県美術館 多目的ホール

アーティストトーク「転生するものたち II」

日 時:令和3年6月20日(日)13:30~15:30
出 演:富田美樹子・宮田彩加(出品作家)・担当学芸員
会 場:岐阜県美術館 多目的ホール

◆ナンヤローネ×素材転生 アートアクション「こわす+つなぐ」

日 時:令和3年4月25日(日)10:15~16:00
講 師:大貫仁美(出品作家)
会 場:岐阜県美術館 多目的ホール

◆ナンヤローネ×素材転生 アートツアー「《野良犬》とつくる物語」

日 時:令和3年5月30日(日)14:00~15:30
会 場:岐阜県美術館 展示室3

◆ナンヤローネ×素材転生 アートアクション「和紙をかさねるーひとはね」

日 時:令和3年6月6日(日)10:15~15:30
講 師:ウチダリナ(出品作家)
会 場:岐阜県美術館 多目的ホール

◆美術講座

日 時:令和3年5月8日(土)14:00~15:30
担 当:正村美里(展覧会監修者)
会 場:岐阜県美術館 講堂 →中止

日 時:令和3年6月12日(土)14:00~15:30
担 当:齋藤智愛(担当学芸員)
会 場:岐阜県美術館 講堂

◆夜間開館ギャラリートーク

日 時:令和3年5月21日(金)、6月18日(金)
各日19:00~19:30
会 場:岐阜県美術館 展示室3

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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