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「牛田コレクション作品と作家の現在」ギャラリーヴォイス(岐阜県多治見市)11月29日まで

牛田コレクション作品と作家の現在

 岐阜県多治見市の多治見市文化工房ギャラリーヴォイスで、2020年10月4日〜11月29日、「牛田コレクション作品と作家の現在」展が開かれている。

 ギャラリーヴォイスの指定管理者である共栄電気炉製作所が買い上げた「牛田コレクション」の陶芸作品と、その制作者である陶芸家の現在の作品を合わせて展示する試み。

 10月4日には、出品者4人によるシンポジウム「作品と現在のあいだ」を開催。多治見市陶磁器意匠研究所の所長でもある中島晴美さん、鈴木徹さん、川端健太郎さん、酒井博司さんが自作について語った。

出品作家

石橋 裕史、伊村 俊見、加藤 委、川端 健太郎、五味 謙二、黒川 徹、酒井 博司、佐藤 雅之、鈴木 徹、中島 克子、中島 晴美、林 恭助、森野 彰人、柳原 睦夫、若尾 経

石橋 裕史

石橋 裕史

 石橋裕史さんは1957年、東京生まれ。1984年、京都府丹波町に築窯。京都府無形文化財保持者。日本工芸会理事。日本伝統工芸展文部科学大臣賞、日本陶芸展グランプリなどの受賞歴がある。焼成後に高圧で研磨剤を吹き付ける「サンドブラスト」で幾何学模様を刻む技法を応用し、青磁に新しいテイストを生み出した。 優美な輪郭と模様、柔らかく透明感のある色彩が美しい。

伊村俊見

伊村俊見

 伊村俊見さんは1961年、大阪府生まれ。「非情のオブジェ—現代工芸の11人」(2004年、東京国立近代美術館工芸館)などの美術館企画展にも参加。国際陶磁器展美濃陶芸部門グランプリ、信楽陶芸展大賞、長三賞陶芸展長三賞など、数々の受賞歴がある。うつろいをはらんだ形態、物質と空間、時間を捉えながら、黒陶で表現する作家である。金属のような光沢のある部分と、マットな部分の質感の違いが土との対話の中で生まれる形態の変化とともに反転して面白い。

加藤委

加藤委

 加藤委さんは1962年、岐阜県多治見市生まれ。2013年、多治見市に新窯築窯。1990年代から注目され、「磁器の表現—90年代の展開」(1996年、東京国立近代美術館)など、数々の美術館の企画展に参加した。青白磁による緊張感ある形、清澄な色彩、身体性を感じさせる力強くシャープな線や、しなやかさ、おおらかさ。シンプルな中に実にさまざまな態様を均衡させる造形である。 

川端健太郎

川端健太郎

 川端健太郎さんは1976年、埼玉県生まれ。岐阜県瑞浪市在住。装飾性をまとった新感覚の表現が注目され、「装飾の力」(2009年、東京国立近代美術館工芸館)、「現代・陶芸現象展」(2014年、茨城県陶芸美術館)など、さまざまな企画展に召集されている。生き物の器官のような部分が変化に富み、細部がとても丁寧に作られている。作品については、「川端健太郎 多治見市陶磁器意匠研究所」を参照。

黒川徹

黒川徹

 黒川徹さんは1984年、京都府生まれ。筑波大を経て、京都市立芸大修士課程工芸専攻陶磁器修了。国際陶磁器展美濃審査員特別賞などを受賞した。「土と抽象 記憶が形に生まれるとき」(2019年、益子陶芸美術館)など多数の企画展に参加。海外での滞在制作も多い。多孔性の形態、ねじれのある造形など、計算された中にも、ゆがみ、ズレがあって、有機的である。素材との対話から生まれた「弦」「膜」などの概念から、さらなる展開によって形態を追究する。

五味謙二

五味謙二

 五味謙二さんは1978年、長野県茅野市出身。早稲田大学卒業後、那覇市で壺屋焼を学び、さらに岐阜県土岐市、茨城県笠間市で制作した。国際陶磁器展美濃の陶芸部門グランプリなどを受賞している。円筒状の上下二層が重ねられ、「彩土器」と名付けられたオブジェ作品、もう1つの「shi-tou『シサ』」とも、表面の風化したような質感が特徴。プリミティブな味わいとも相まって、太古からの積層した時間性を感じさせる。

酒井博司

酒井博司

 酒井博司さんは1960年、岐阜県土岐市生まれ。名古屋工業大を卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所を修了。加藤孝造さんに師事した。陶美展日本陶芸美術協会賞など、数々の受賞歴がある。美濃焼の伝統である志野の本質を踏まえつつ、その概念を超える藍色志野を追究した。 緊張感をはらむ端正なライン、穏やかな風合い、表面の「梅花皮(かいらぎ)」が見せる表情の滋味が引きつける。

佐藤雅之

佐藤雅之

 佐藤雅之さんは1968年、新潟県生まれ。武蔵野美術大学短期大学部を経て、多治見市陶磁器意匠研究所を修了。「現代・陶芸現象展」(2014年、茨城県陶芸美術館)など、美術館の企画展にも数多く参加。代表作「水の骨」は、水分の多い泥しょうが作り出すフラジャイルな層が美しく、海藻が水に揺らぐような造形は、それ自体が水の流れのようでもある。泥しょうの水分が焼成によって消えると、逆説的に土の形が水のように見えるという発想が面白い。緻密かつ繊細な作品である。

鈴木徹

鈴木徹

 鈴木徹さんは1964年、岐阜県多治見市生まれ。日本陶磁協会賞受賞。日本工芸会正会員。東海伝統工芸展、日本伝統工芸展で受賞を重ねる。織部釉を使いながら、これまでにない緑色を出したいとの思いか ら、「緑釉」と名付ける。流れるような動感を伴った存在感が、時に荒々しく、時に流麗である。緑釉を巧みに使いこなしたグラデーションが想像力をかき立てる。伝統を踏まえながらも、変化に富んだ緑色がさまざまな心象を見る人に浮かばせる。

中島克子

中島克子

 中島克子さんは大阪芸術大学卒業。京畿道世界陶磁器ビエンナーレ金賞、台湾陶磁器ビエンナーレ審査員特別賞などを受賞。ギャラリー、美術館などでの展覧会歴も多い。「出会うかたち 影」は、 大小の舟形の皿2枚がずれて重なるという独特のスタイル。その皿が分離できるなど、機能性とデザイン性、個性がぎりぎりの感覚で統合されている。ジグザグ、ドット、ストライプ、渦巻きなどの模様にも自由な遊び心を感じる。

中島晴美

中島晴美

 中島晴美さんは1950年、岐阜県恵那市生まれ。大阪芸術大学卒業。愛知教育大教授として多くの後進を育て、今も多治見市陶磁器意匠研究所所長として、若い陶芸家にインスピレーションを与えている。京都市の現代美術⾋居及びアネックスで、2020年10月2日〜11月21日、「50年の軌跡」展を開催中。土との身体的、精神的対話を独自の造形プロセスへとつなげ、そこから生成される新たな有機的形態の追究を今も続けている。

林恭助

林恭助

 林恭助さんは1962年、岐阜県土岐市生まれ。土岐市立陶磁器試験場の研修課程を修了後、加藤孝造さんに師事した。中国宋代の曜変天目の再現でも知られる。現在、日本工芸会正会員、美濃陶芸協会会長、土岐市無形文化財「黄瀬戸」保持者。多視点から見た端正な造形、流れるような口縁の曲線、丸みを帯びた側面のフォルム、黄瀬戸という伝統が一体となった、シンプルながら豊かな作品である。

森野彰人

森野彰人

 森野彰人さんは1969年、京都生まれ。大阪芸大、京都市立芸大大学院美術研究科修了。1990年代から活躍し、美術館での企画展参加も多い。シャープで現代的でありながらプリミティブな、古代生物、骨格、楽器や部族の礼拝物を連想させる独特のオブジェである。ひっかいて下層の微妙な色のグラデーションを出す「かき落とし」技法など、多様な手法、異なる素材、緻密で繊細な制作を重ねながら、象徴的な形態を生み出している。細部の表情が豊かであるとともに、空間への広がりも感じさせる。

柳原睦夫

柳原睦夫

 大阪芸大名誉教授。「空」「沓花瓶」「笑口壺」「ペロット瓶」「反器」「開く形」など数々のシリーズを展開。「現代日本の工芸」(1978年、京都国立近代美術館)、「前衛芸術の日本1910-1970」(1986年、仏ポンピドゥ・センター)、「1960年代の工芸 昂揚する新しい造形」(1987年、東京国立近代美術館工芸館)など、現代陶芸を担う1人として、豊富な出品歴がある。器、伝統、日本、内部などの概念をとらえ返していく批評性、対立概念を共存させ、ユーモアへと結び合わせる、柔軟でありながら力強い造形性が魅力である。

若尾経

若尾経

 若尾経さんは1967年、岐阜県多治見市生まれ。日本大学で写真を学び、その後、多治見市陶磁器意匠研究所を修了した。国際陶磁器展美濃銅賞、パラミタ陶芸大賞展大賞などを受賞。青瓷の技法を応用した皿や花器は、光沢のある微妙な色彩と波打つような造形が独特である。しなやかな起伏、曲線や柔らかさと、研ぎ澄まされた感覚、硬質感を併せ持つ静謐なたたずまいが引きつける。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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