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水野勝規・中村眞美子・三輪奈保子 ギャラリーキャプション Light and Shade  

GALLERY CAPTION(岐阜市) 2020年2月15日〜3月15日

岐阜で開催中の展覧会 モノクロームをテーマに3人が展示

 光と影、明と暗、白と黒をテーマにした3人展。

 水野勝規さんのサイレント映像、中村眞美子さんのドライポイント、三輪奈保子さんの木炭によるドローイングがそれぞれに美しいモノクロームの世界を見せてくれる。中村さんと三輪さんは、キャプションで初めての展示となる。

水野勝規さんの花火の映像作品

 核になっているのは、水野勝規さんの映像作品である。

 水野さんは1982年、三重県生まれ。名古屋造形芸術大卒業後、京都市立芸大大学院美術研究科絵画専攻造形構想修了。

 静謐な映像作品で知られ、美術展示のほか、イメージ・フォーラム・フェスティバルや、愛知芸術文化センターでのアートフィルム・フェスティバルなどにも出品している。

水野勝規

 カメラワークを排した定点観測的な撮影によって何気ない風景、日常を映した無音の映像に世界の美しさと不可思議さ、時間や空間への意識を喚起するスタイルが印象に残る作家である。

 映像を作り込む、カメラワークで見せる、CGを駆使するなど、プラスする発想とは違い、手を加えることをできるだけ避ける、場合によっては要素を減じることで、逆説的に世界を開示させていく手法が斬新である。

 今回の作品「fireworks」は、花火をモチーフとし、2019年、横浜市の神奈川芸術劇場KAATのアトリウムで投影された。

水野勝規

 ネガポジを反転し、色彩をモノクロに変換。フレームレート(1秒間の動画のコマ数)をアニメーションの水準に落としていることもあって、白い紙に黒色で描いたドローイング・アニメーションのような素朴な趣がある。

 花火の映像をオーバーラップさせるようにレイヤーを重ねている。色彩を取り除き、音も消してサイレントにしていることから、花火そのものの始まり、動き、形、広がり、終わり、連続性、関係性が9分間のループ映像の中に純粋に抽出され、とても美しい。

 ドローイング・アニメーションのようなざらついた感触とともに興味深いのは、花火の動きが減速され、とてもよく分かることである。

 花火の玉が打ち上げられたときのゆっくりと上昇する動き、雪のようにひらひらと落ちる火の粉、揺らめく星形、ジグザグ動きを見せる光、四方八方へと弾ける線状、煙の広がり、光の粒子の拡散。さまざまなリズムで、時に生き物のように動いている。

水野勝規

 また、RGBカラーコードでは、R、G、Bの全てがゼロのとき、すなわち光の3原色が何もないときに完全な黒になるので、本来、華やかな色彩であるはずの花火をネガポジ反転し、モノクロームとして表現した黒色は逆説的だが、「無」を見ていることになる。

 花火を描いた画家では藤松博などを思い出すのだが、花火の絵は美しい半面、どこかはかなさ、切なさも感じさせる。

 水野さんの作品では、両義的というのか、静謐さの一方で、不穏な爆発のイメージも思い起こさせる。

 この会場では、自然光で映像を見せているので、日中はぼんやりして弱々しいイメージが夕刻が近くにつれ、線が明瞭になってくるのも面白い。

中村眞美子さんはドライポイント   雪と草がモチーフ

 中村眞美子さんは、1972年、長野県生まれ。

 水野さんの映像の両側の壁に掲げられ、モノクロームで抑制された世界がとても空間にマッチしていた。

 版画家の故・山下孝子さんに師事したといい、長野で地道に活動してきた。

中村眞美子

 モチーフは雪の中に浮かび上がる枯れ草。できる限り余分なものを削ぎ落とした簡素な表現で、白い地に対して、抽象と具象の間にある控えめな枯れ草が柔らかく、節度をもって現れている。

 白い絵画空間、雪の空間の余白の美しさを強調するとともに、自ら強く主張することはなく、緩やかなテンポを刻むように配されている。

 個々の草はシンプルながら、意外に変化があって複雑だ。それは、自然そのものの豊かさのようである。

中村眞美子

 ドカ雪によって降り積り、春の訪れとともに消えゆく根雪も、晩秋を経て冬に雪に覆われ、枯れて土に還っていく草も、とるに足らない足元の風景である。

 そうした自分が生きる日常の空間、周囲の世界への作家の目線の温かさ、ゆったりとした時間の流れ、自然豊かな環境で生きる中、ふと目を留めた情景がささやかながら豊かなものだという確かな手応え、自分が外界と関わっているという実感が見る者に響いてくる作品である。

中村眞美子

 雪の中に隠れつつ、さりげなく姿を見せる枯れ草、儚い夢のような人生の時間。今、自分がここにいることの不可思議さと、この世界にいることの小さな幸福感。そんな情景を想起させる作品である。

三輪さんは、編み物のドローイング

 三輪奈保子さんは、1995年、東京生まれの若手。

 2019年、東京造形大学大学院を修了したばかりの作家である。彼女の作品もシンプルだが、編み物が発想の起点である点でユニークである。

 一部に、麻紐を編み込んで別の繊維を抽象絵画のように絡めた作品があるものの、中心はドローイングである。

三輪奈保子

 三輪さんの作品を見て面白いと思ったのは、シンプルなドローイングが編み物のような質感、手の動き、素材感、立体感を感じさせるところだ。

 紙に描いたドローイングが、毛糸を貼ったような実在感をもつ。木炭でまさしくレースを編むように描いていくプロセスの中で、彫刻的な隆起した感じが出ているのが不思議だ。

 編み物をする人は分かるそうなのだが、実際に編み進む中で連鎖する編目の形、その連鎖によって、先のほうで起きる歪み、不ぞろいになる感じも手の動きの中で体感して想像できるらしい。

三輪奈保子

 そうすると、三輪さんの作品では、編み物をする意識がそのまま木炭に憑依しているかのように、手元の動きと出来上がった網目が、その先にある手の動きと次の形を予想させるように誘発していくことになる。

 これは、工芸的な造形に近い気がする。つまり、例えば、陶芸なら土をこねながら身体と素材が対話を連鎖させながら造形していく過程と同様、編み物の手の動き、想像上の毛糸と手との対話が生起させる網目が紙の上で連鎖していくような手工芸的なドローイングである。

三輪奈保子

 木炭鉛筆を重ねていき、紙に対して圧をかけることで、紙の質感に絡ませながら、深く複雑な色合い、質感を引き出している作品もあって興味深かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

水野勝規
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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