AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2023年1月14日〜2月4日
ふるかはひでたか
ふるかはひでたかさんは1968年、愛知県刈谷市生まれ。1992年に東京藝術大学油画専攻を卒業。1994年、東京藝術大学大学院美術研究科壁画専攻修士課程修了。
東海地方では、AIN SOPH DISPATCH(名古屋市)、なうふ現代(岐阜市)で個展を開いている。
2022年のなうふ現代(岐阜市)での個展、2021年のAIN SOPH DISPATCH(名古屋) での個展、2020年のなうふ現代での個展も参照。
フィールドワークと絵図や古文書などの史料調査によって、現代美術の方法論で、地域とその歴史、風景や習俗、食文化、地誌などを問い直す作品を展開している。
特に、江戸 / 東京については2016年に、「パークホテル東京」の3111号室にアーティストルーム「江戸-東京」の部屋を完成させたのをきっかけに、現代と江戸の風景を重ね合わせた「江戸-東京」シリーズを展開した。
今回は、こうした流れにある作品のうち、2020-23年の医薬経済社のカレンダーに使われたふるかはさんの原画を集めた作品展である。いずれの作品も、江戸およびその周辺の風景、当時の食文化と現代を作家の視点でつないでいる。
巡り逝く日々に添えて 医薬経済カレンダー原画展 2023年
歌川広重「名所江戸百景」の「金杉橋芝浦」に現代の首都高の風景を重ねて描いた作品など、江戸と東京が時間を超えて結びつき、文化と風景のつながりを楽しませてくれる作品群である。
作品の中には、江戸城の向こうに駿河の富士山が見え、富士の眺望が江戸一といわれた駿河町(現在の東京都中央区日本橋室町)の風景もある。呉服と両替を営んだ三井越後屋があった場所である。
また、幕末の黒船来航時のペリーの上陸地、久里浜(横須賀市)の現代の風景と黒船を融合するように描きこんだ作品では、CGでなく、現地を歩き、思索して描くことから来る確かなリアリティがにじみ出ている。
ロンドンやパリを超える大都市へと巨大化した江戸が生んだ需要によって、日本の近代は育まれた。
近代は文明開化による西洋化と捉えられがちだが、古川さんの主張は、むしろ、江戸の大衆文化、街場の文化こそ現代日本のアイデンティティーの骨格になっているというものである。
明治以降の近代化、都市化によって、風景が変わっても、街が記憶を宿している。あるいは、江戸から生まれた食べ物が、現代日本の食生活と直結している。そう考えると、江戸の人たちが遠い歴史の彼方にいるのではなく、親しみやすい隣人と思えてくる。
今回も、江戸の町人文化の大衆性によって育まれた深川めし、海老しんじょ、天ぷら蕎麦などをモチーフとした作品が登場している。
日本人は近代化イコール西洋化と考える傾向があるが、江戸の町にこそ現在の日本に通じる独自の歴史があることが分かる。
江戸の巨大化と、その大衆文化が現在の日本の土台、海外から見たジャポニスムのベースになっていることは、食文化のみならず、漫画や文学、ビジュアルなどでもいえる。
明治維新後のドラスティックな西洋化ではなく、江戸の町中の手作業による近代化への助走こそが、今の日本らしさをつくっている。ふるかはさんの作品は、日本人が忘れている江戸、日本人に意識されにくいアイデンティティーを再発見させる。
鮨や天ぷら、蕎麦、鰻など、自然の素材を職人技で楽しませた現代のフードコートのような外食環境が、和食を育んだ。
ふるかはさんが着目したのは、食べ物だけではない。
江戸時代に流行した変わり咲き朝顔など、江戸の園芸ブームも、今回取り上げられている。
豊かな自然から離れた大都市・江戸の片隅の空間で町民が楽しんだ自然を愛でるささやかな営みが、今のガーデニングのはしりである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)