gallery N(名古屋) 2021年1月23日〜2月14日
藤原葵さんは、1994年、愛知県生まれ。名古屋芸術大学で吉本作次さんから指導を受けた。2019年、若くして「あいちトリエンナーレ2019」に出品した。
gallery Nでは2018、2019年に続いて、3回目の個展である。
2回目の個展「ちからこそパワー!」も参照。
今回は、作家本人が作品発表に向け、第三者的な視点を望んだということで、豊田市美術館の能勢陽子さんがゲストキュレーターに入っている。
作品の選定などに能勢さんのキュレーションがある。そのせいもあるのだろうが、作品点数を抑え、1点1点をしっかり見てもらうような展示になっている。
藤原さんの作品は、「機動戦士ガンダム」「エヴァンゲリオン」などのアニメーション映像のエフェクトを引用し、絵画空間をつくっている。
筆者も、トリエンナーレの大作のインパクトには圧倒されたが、今回のギャラリーでの個展では、2019年の個展と同様、エフェクトをモチーフに絵画空間を冷静に探っているように見える。
今回、能勢さんが寄せた文章によると、藤原さんは、エフェクトを多元的に展開するというよりは、1つのエフェクトを取り出して描いている。
アニメーションやゲームというフィクションの中から人間の心理に作用する効果を抽出し、それに藤原さん自身が世界、社会と向き合うときの感覚、感情を重ねている。
エフェクトを次々と引用し、エネルギッシュに多元的な空間を構築する方法から、要素をそぎ落として自分を軸に絵画空間そのものを組み立てる描き方に変化してきたといえるのかもしれない。
今回は、2019、2020年に描いた作品を展示した。
光の粒子を意味する《Photon》という連作の作品では、左上から右下に一筋の直線が走り、そこから、瞬くような光の粒子が広がっている。
直線は、黒い筋が赤く発光し、その周囲に光の粒子が拡散しているという趣きである。
背景は、青、赤系の色彩が浸潤し合うような空間である。
その隣にある《Photon》は、さらにシンプルで、白い斜めの筋が黄色く発光し、空間を貫いている。
ここには、明らかに形象と地という絵画空間の基本に立ち返る姿勢が見える。
波のようなうねりを意味する《Surge》では、絵画空間がもう少し豊かなものになっている。
右下から広がる青、左上から漂うくすんだ赤が汽水域のように重なりながら、黄や青の稲妻(放電)が四方から伸び、所々で火花が起きている。
藤原さんの作品に感じるのは、2Dのアニメーションに由来する画面の平面性、装飾性、遊戯性が、絵画の空間性とのせめぎあいを見せていることである。
光の一筋や煌めき、稲妻、火花をアニメーション風のシャープでフラットな形象のパターンで表現する一方、奥行きも意識し、そうした形象の配置や変形によって、空間性と動きを生成させているのである。
画面が左右に2分割されたと思っていた作品は、上方から稲妻が奔流のように切り込んでくる《Torrent》と、逆に下方から散り散りになった炎のような形象が巻き上がる《Pyro》という2作品が、コンバインされて展示されたものだった。
藤原さんの提示するイメージには、一筋の光のように恩寵と思えるものだけでなく、激しく画面を這い回る稲妻のように不安、恐れを感じさせるものがある。
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