L gallery(名古屋) 2023年4月15〜30日
フジイ フランソワ
フジイフランソワさんは静岡県生まれ。名古屋市在住。名古屋、東京、大阪などのギャラリーで個展を開催。名古屋では、L galleryで継続的に個展を開いている。
VOCA展2000で奨励賞を受けている画家である。美術館でも、豊田市美術館(2009年)、一宮市三岸節子記念美術館(2018年)で個展が開催された。作品は、豊田市美術館などに収蔵されている。
最近では、L gallery(名古屋)での2020年12月〜2021年1月のグループ展「星月夜」に出品した。
伝統的な絵画の流用も駆使しながら、独自の切り口でクリエイションした、妖気漂う不穏さとおかしみが同居した作風で知られる。
2つ以上の異なる世界が絡み合うとともに、日本の美意識、風土、文化、精神性を読み替えながら作品化している。
もののけたちの宴 − 春宵 2023
単に日本の古美術を利用したアプロプリエーションでもないし、日本の古い絵画らしく模倣的に見せただけの世界でもない。
そうしたものを吸収しながら、現代絵画として描き、しかも、日本の古層を背景にしているのが、フランソワさんの絵画ではないだろうか。古層の中でも、古代の自然信仰(アニミズム)を根っこにした神道が大きな位置を占めている。
今回は、鹿の絵の特集である。鹿は神の使いとされる。その角の部分がさまざまに変化している、ある種、グロテスクな姿が今回の鹿である。
鹿の角は「枝角」と呼ばれ、木の枝のように枝分かれする。フランソワさんはそこに着眼し、イメージを広げたのだろう。
枝角からの連想で木の枝になって、そこに花や葉がつき、さらにそこから異世界が展開する。神話の題材や神様の名前からタイトルが取られているので、そうした神話が作品に関わっているのかもしれない。
主に、和紙に鉛筆、水彩、アクリル絵具で描き、墨や胡粉、膠なども使用。あえて、箔を使わず、箔風に描いているのが、フランソワさんらしいところである。
作品を見ると分かるのだが、いずれの縦長の同じサイズで、鹿はおおよそ画面の下部の3分の1に描かれている。枝角から広がるイメージが作品の多くの部分を占めているのである。
面白いのは、鹿の表情である。多くは、無表情か、キョトンとした感じで、鑑賞者の方を見ている。自分の角が妄想的なイメージに変わっていることを知らないふうであるが、同時に、こちらを意識しているようでもある。
そもそもこれは「鹿の絵」であって「鹿」でないのだが、その「鹿の絵」の枝角から広がったイメージは、いわば画中画である。
満開の花、おびただしい草花、波濤、山水‥‥。伝統的な絵画イメージの流用をフランソワさんは以前からしていて、その典拠を当てるのも楽しみの1つだが、専門家でない筆者は引用先を明らかにすることができない。
やはり、なんといっても面白いのは、鹿の角から、別の絵のイメージが広がっていることだろう。つまり、2つの絵が、角を介して、同じ地の上でつながって展開している。
「もののけ」という個展タイトルが付いていることからも分かるように、フランソワさんは、自然の霊力をテーマとしている。
神の使いである鹿の角から広がった樹木や花、海、山などのイメージにも、精霊が宿っているのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)