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「表現の不自由展」東京は4月2-5日に開催、名古屋での再展示は中止、大阪は開催

東京展は2022年4月に開催

 「あいちトリエンナーレ2019」で、混乱のため一時中止になった企画展「表現の不自由展・その後」の作品の一部を再展示する展覧会「表現の不自由展 東京2022」が2022年4月2-5日、東京都国立市のくにたち市民芸術小ホールで開催される。

 2022年8月の名古屋、京都での再展示はこちら

 2021年6-7月、「私たちの『表現の不自由展・その後』」として、東京都新宿区のギャラリーで開催予定だったが、「反日展示会はやめろ」などとする街宣車の抗議を受け、延期になっていた。

 名古屋展は、会場に届いた郵送物から破裂音がするなどし、会期途中で中止になった。大阪展は、府の施設が利用許可を取り消すなどしたが、司法判断を経て開催された。

名古屋での再展示 7月8日の破裂騒ぎで中止に

「『表現の不自由展・その後』をつなげる愛知の会」が主催、2日間で中止

 「私たちの『表現の不自由展・その後』」の名古屋展が2021年7月6日、名古屋市中区の市民ギャラリー栄で始まった。

 会期は7月11日までの予定だったが、報道によると、8日、同ギャラリーに届いた郵便物の破裂音騒ぎが起きたことから、名古屋市が11日までの施設の 臨時休館を発表。不自由展は事実上、会期途中で中止となった。

表現の自由を暴力で封殺することに抗議する声明

 これを受け、主催する名古屋市の市民団体「『表現の不自由展・その後』をつなげる愛知の会」は、7月10日、会のWEBサイトに「表現の自由を暴力で封殺することに抗議する声明」を発表した。

 声明では、名古屋市の対応について、「表現の自由を脅しという犯罪行為によって制約することは、権利を制限して、犯罪行為の側に加担することになる」と指摘している。愛知の会は、中止になった4日分の再開を目指し、市に協議を働きかける方向。

 愛知の会は、会期中も、市に対して展覧会の再開を要望したが、叶わなかった。

 声明の全文は、こちら

展示再開求め、9月にも申し入れ書を送付

 報道によると、主催団体の「『表現の不自由展・その後』をつなげる愛知の会」が9月6日、中止となった4日間(7月8〜11日)の展示再開を求める申し入れ書を名古屋市に内容証明郵便で発送したと発表した。

 団体は協議の場を設けることを求めており、対応がない場合は、表現の自由を保障した憲法21条に反するとして、提訴も検討するとしている。

7月8日朝の爆竹の破裂音

 報道によると、展覧会初日の7月6日、会場近くでは、反対派、賛成派の双方が横断幕やプラカードを手に街宣活動を展開。一時は騒然となり、ギャラリーの入る建物入り口では、愛知県警の警察官らが警備に当たった。

 その後、7日は展示が続いたが、8日朝、市民ギャラリー栄に爆竹のようなものが入った郵便物が届いた。ギャラリー開場(午前10時)前の9時半ごろ、職員が警察官立ち会いのもと、封筒を開けたところ、中で破裂音がした。名古屋市は安全上の問題から、施設の利用を一時中断。けが人はいなかったという。

 報道によると、その後の警察の調べで、封筒を開けたときに電池で発熱して爆竹のようなものが破裂する簡単な仕掛けが入っていたとみられる。

 郵便物には、関西地方の消印が押され、右翼団体のような団体名も書かれていた。「USB在中」との記載や、不自由展の開催中止を求めるメモ書きあったという。

 その後、市は、11日まで施設を臨時休館すると発表。不自由展はまたも中止に追い込まれた。

経緯

 もともと、この展覧会は、「『表現の不自由展・その後』をつなげる愛知の会」が2021年5月18日に記者会見し、開催について明らかにした。

 あいちトリエンナーレでは、抗議が相次ぎ、2019年8月1日の開幕から3日間で、不自由展が一時中止に追い込まれた。名古屋市の河村たかし市長も抗議し、愛知県の大村秀章知事と対立するきっかけになった。「『表現の不自由展・その後』をつなげる愛知の会」は、トリエンナーレの際、展示再開を求めた団体で、今回の再展示は、表現の自由の回復が狙いとしていた。

 戦時中の慰安婦を象徴する「平和の少女像」や、昭和天皇の肖像を燃やすシーンがある映像作品など3点が展示された。

作品について

展示作品①

 韓国の彫刻家キム・ソギョン、キム・ウンソン夫妻の「平和の少女像」(2011年)。2人は、1980年代の韓国の独裁政権に抵抗し展開された民衆芸術の流れをくみ、精神が脈々と受け継がれている。「慰安婦」被害者の人権と名誉を回復するため在韓日本大使館前で20年続いてきた水曜デモ1000回を記念。当事者の意志と女性の人権の闘いをたたえ、継承する追悼碑として市民団体が構想、市民の募金で建てられた。最大の特徴は、台座が低く、椅子に座ると、目の高さが少女と同じになるなど、見る人と「意思疎通」できるようになっていること。2012年に、東京都美術館での「JAALA国際交流展」でミニチュアが展示されたが、同館運営要綱に抵触するとして、作家が知らないまま、4日目に撤去された。戦中から現在まで、女性の一生の痛みを表すハルモニになった影、戦後も故郷に戻れず、戻っても安心して暮らせなかった道のりを表す傷だらけで踵が浮いた足(これは韓国社会をも省察したもの)など、本作細部に宿る意味も重要だという。

展示作品②

 大浦信行のシルクスクリーン・リトグラフ「遠近を抱えて」(1982-83年)は1986年に富山県立近代美術館主催「86富山の美術」で展示され、その後の日本の美術界で長くトピックとなった作品。いわゆる「天皇コラージュ事件」で、作家自身の拡散する肖像イメージと逆に内に向かう作られたものとしての昭和天皇のイメージのせめぎ合い、葛藤を主題にした「自画像」である。展覧会後に県議会で「不快」だと問題視され、マスコミ報道、右翼団体の抗議もあって図録非公開に発展。1993年には美術館は作品を売却、図録の残部470冊全てを焼却した。作品公開と図録再販を争った作家と市民など支援者による6年にわたる裁判も敗訴した。トリエンナーレの会場では、このコラージュ作品と作品を燃やすシーンを挿入した動画「遠近を抱えてPartII」が公開された。今回は、この動画を公開する予定。

展示作品③

 韓国人写真家、安世鴻の写真「重重—中国に残された朝鮮人日本軍『慰安婦』の女性たち」(2012年、韓紙にピグメントプリント)。日本敗戦後、中国に置き去りにされた朝鮮人の日本軍「慰安婦」被害者たちを2001年から5年かけて探し当て、12人を写真に収めた。韓国伝統の韓紙に焼き付けられたモノクロ写真には、印画紙とは異なる陰影と風合いがある。何度も足を運び、泣き笑い語り合い、日常の困りごとを手伝い、最後に撮影したという。「重重」というタイトルで、2012年、新宿ニコンサロンでの写真展が決まったが、開催1カ月前、ニコンが「諸般の事情」で一方的に中止を通告。安の仮処分申請で実現した写真展には、同サロン史上最多の7900人が来場した。その後、3年に及ぶ裁判で、写真展を非難する右派の抗議に対するニコンの過度な「自主規制」が明らかとなり、2015年末、原告が勝訴した。安は、6カ国に存在する140人以上の被害者を探し出し、今も撮り続けている。

会期、時間など

会期:7月6日(火)~7月11日(日)
(午前10時~午後7時、最終日は午後4時まで)
​会場:市民ギャラリー栄

 展覧会や作品の詳細についての主催者のWEBサイトは現在、閉鎖されている。

会場は名古屋市の市民ギャラリー栄だが‥‥

 市民ギャラリーは名古屋市の施設だが、報道によると、管理・運営する名古屋市文化振興事業団は、市民団体に入場者の安全確保など協力を求めた上でギャラリーの使用を許可した。

 報道によると、2019年の不自由展の際に展示中止を求めた河村たかし市長は5月18日、今回の再展示が名古屋市の施設で開かれる点について、「ルールにのっとって公共施設を使うのは構わない。トリエンナーレで反対したのは公共事業だから」と語ったという。

7月3日に市民集会も開催

 「『表現の不自由展・その後』をつなげる愛知の会」 は、展覧会開催を前に、7月3日午後1時30分から、「7.3 成功させよう!私たちの『表現の不自由展・その後』展 市民集会」を、名古屋市中区の東別院ホールで開く。

 講師に、憲法学者の志田陽子さんを迎え、「あいとり 2019 から現在までの『表現の自由』を振り返る」の演題で議論を深める。

 志田陽子さんさは、武蔵野美術大学造形学部教授。表現活動にかかわる法律・社会倫理に関する講座、教職必修「日本国憲法」を担当している。

 参加費は500 円。オンラインでの参加希望者は、名前、メールアドレスを記入して 7月1日まで、メールで申し込む。詳細はこちら

同じ会場であいちトリカエナハーレ(中止)

 また、6月18日配信の朝日新聞デジタルの記事によると、「私たちの『表現の不自由展・その後』」と同時期に、政治団体関係者らが同じ会場で、企画展「あいちトリカエナハーレ」を開く。団体は、反移民など排外的な主張を掲げている。不自由展にぶつけて、企画したとみられる。

 同記事によると、トリカエナハーレ展は、7月9~11日に開かれ、会期がかぶっている上、会場も同じ市民ギャラリー栄で、展示室が向かい合う。名古屋市は、主催者側が安全確保を尽くすとしたためスペースの使用を許可したという。

 6月25日の朝日新聞朝刊(地方版)によると、この団体の動きに対してはヘイトスピーチへの抗議を続けている市民団体「CRAC758」が弁護士と連名で使用許可の取り消しを求める要望書を提出した。

 同記事によると、 あいちトリカエナハーレを計画している実行委員会には、各地でヘイトスピーチ的な街宣を展開してきた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の元会長が代表者となっている政治団体の関係者が参加している。

東京では妨害行為 延期決定

街宣行動や抗議電話が原因

 一方、報道によると、名古屋での開催を前に、6月25日から7月4日まで都内で開催予定だった東京展では、展覧会中止を求める街宣行動や抗議電話が続き、新宿区のギャラリー「セッションハウス・ガーデン」が急遽、会場提供を取りやめた。

 6月10日、主催団体の実行委員会は、別会場での開催を目指すとしたが、6月24日、いったん決まった新会場がまたも会場の貸し出し不可としたのを理由に、25日からの開催を延期すると発表した。

 主催団体のWEBサイトによると、6月9日に新たな会場が見つかり、10日にスペースの貸し出しについて、いったん合意した。しかし、その後、新会場側が「近隣へ迷惑がかかる」として、貸し出し不可を連絡してきた。

 実行委は、同会場での開催を断念。予定した会期での開催は不可能だと判断し、展覧会の延期を決定した。今後、新しい会場、開催期間を決める。

  7月の名古屋市、大阪市での展示終了後の開催を目指す。

 報道によると、当初、予定されていた会場「 セッションハウス・ガーデン 」では、開催を告知した6月3日以降、妨害のメールや電話がギャラリーに届いたほか、右翼団体や排外的なグループが会場前に押しかけ、大音声で抗議活動をした。

 6月26日午後7時30分から、オンラインで「前山忠講演:1971年の検閲事件と政治性の美術」がある。

アライ=ヒロユキさんが委員を辞任

 また、報道によると、東京展を巡っては、展覧会を運営する表現の不自由展実行委員会の委員の1人、美術批評家のアライ=ヒロユキさんが、意見の相違から辞任した。

 報道によると、アライさんが提案した「展覧会の抜本的中止」が実行委で一顧だにされなかったのが理由で、アライさんは、泥沼化した中で展示継続にこだわれば、出品作家を消耗させ、美術界に傷跡を残すなどとしている。

 東京展に関する情報はこちら

大阪では施設側が使用許可取り消し 最高裁は会場利用認める決定

実行委は提訴 大阪地裁が会場利用認める決定 大阪高裁、最高裁とも地裁決定を支持

 一方、大阪市では、企画展「表現の不自由展かんさい」が迷走の末、 2021年7月16日、 多くの警察官が警備に当たる厳戒態勢の中で開幕した。18日までの予定。

 従軍慰安婦をモチーフにした「平和の少女像」をはじめ、 昭和天皇を含む肖像が燃える映像作品、絵画など約30点が展示されている。

 7月16日付の朝日新聞、毎日新聞夕刊、産経新聞(WEB)などによると、会場周辺では、展示反対派が街宣活動を展開。賛成派もプラカードを掲げ、応戦した。多数の警察官が立ち、警察車両やバリケードで警備を徹底。入り口では、金属探知機も使った手荷物検査を実施した。新型コロナウイルス対策もあって、入場者数を1時間50人に制限。弁護士も待機した。

 毎日新聞(WEB)などによると、会場の大阪府立労働センター「エル・おおさか」の指定管理者が会場の使用許可を6月25日付で取り消す処分をした。しかし、主催者側の実行委員会が処分の執行停止を申し立て、大阪地裁が7月9日、会場の利用を認める決定をした 。

 これに対し、 施設の指定管理者は7月12日、大阪地裁の決定を不服として、大阪高裁に即時抗告。大阪高裁は7月15日、実行委の会場利用を認めた大阪地裁決定を支持し、施設側の即時抗告を棄却した。 施設側は最高裁に特別抗告をしたが、16日、最高裁も、地裁、高裁に続き、会場利用を認める決定をした。

 大阪高裁は、企画展主催者の思想に反対するグループなどによる妨害行為の恐れがあることを理由に施設の利用を拒むのは、表現の自由を保障する憲法21条の趣旨に反するとした。

 展示作品については、あいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」のレポートを参照。また、出品者の1人、岡本光博さんについては、「岡本光博展 トラロープ」も参照。

経緯

 この問題では、「エル・おおさか」の指定管理者が会場の使用許可を6月25日付で取り消す処分をしたのに対し、企画展の実行委側が「表現の自由を保障した憲法21条に違反している」として、6月30日、処分の取り消しを求め、大阪地裁に提訴。併せて、処分の効力を一時的に止める執行停止も申し立てた。

 大阪地裁は7月9日、憲法の保障する表現の自由の不当な制限につながるとして、会場の利用を認める決定をした 。 これを不服とした施設側は12日、大阪高裁に即時抗告をした。

 しかし、大阪高裁が15日に地裁決定を支持し、施設側の即時抗告を棄却したことから、 施設側は最高裁に特別抗告をした。最高裁も16日に、地裁、高裁に続き、会場利用を認める決定をした。

 その後、展示が16~18日に予定通りに開かれたことで、訴えの利益がなくなったことから、実行委側は処分取り消しの訴えを取り下げた。

脅迫文も届く

 報道によると、その後、13日になって、会場となる施設「エル・おおさか」に、「もし強行に開催するなら実力で阻止する」などと書かれた脅迫文が届いた。大阪府警が捜査している。

 「不測の事態が生じることを警告する」「会場施設の破壊、人的攻撃を含む」とも書かれてあった。消印は大阪府内。差出人として団体名が記載されていた。

 また、報道によると、14日には、「サリン」と書かれた不審な液体が会場に届き、10人ほどの職員が一時避難した。液体は水とみられるという。液体とともに届いた文書は、即時抗告を取り下げ、不自由展を開催するように求める内容だった。

 16日夜には、開催に対する抗議文とともにペーパーナイフのような物が入った郵便物も施設に届いた。

 また、17日、爆竹が入った郵便物が配送途中の郵便局で見つかった。「表現の不自由展かんさい」宛てで、大阪府警が中を確認したところ、爆竹と中止を要求する文書が入っていた。

知事は取り消し支持、違法性指摘の声も

 この問題については、企画展に対する抗議活動が続き、同センターが利用者の安全が保証できないと判断。事前に相談を受けた大阪府も容認した。

 6月26日、吉村洋文知事も、指定管理者が使用許可を取り消した判断を支持する考えを明らかにした。「エル・おおさか」の中には保育施設などもあることから、抗議活動によって施設を安全に管理・運営するのが難しくなるとしている。吉村知事は30日の記者会見でも、改めて施設側の対応に賛意を示した。

 大阪では、関西の市民有志で構成する実行委が主催。弁護士が常駐し整理券を配布する方法で開催する準備を進めていた。

 また、指定管理者や大阪府が段取りを踏まず、抗議活動だけで使用許可を取り消したことに対し、識者からは、表現の自由の抑圧を危惧する意見や、違法性を指摘する声が上っている。

 入場料は1000円で、学生や障がい者は無料。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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