近代日本の視覚開化 明治──呼応し合う西洋と日本のイメージ
「近代日本の視覚開化 明治──呼応し合う西洋と日本のイメージ」が2023年4月14日~5月31日、愛知県美術館で開催される。
江戸時代から明治という新しい時代への転換は、政治経済体制だけでなく、人々の生活や文化全般を含むさまざまな状況を変容させた。
開国後の日本で、人々は西洋の情報や技術を貪欲に習得。日本のイメージを対外的にどうアピールするかという課題にも取り組んだ。
造形活動の領域でも多彩な動向が生まれた。西洋から入った情報や技術、イメージは、当時の日本の人々に新たな視覚をもたらした。
新たなものの見え方、見方を経験し、それまでなかった見せ方も生まれた。「文明開化」は「視覚開化」でもあった。「美術」という訳語や概念が日本に入ってきたのも明治時代である。
本展では、明治期の美術、工芸を多数所蔵する神奈川県立歴史博物館のコレクションを中心に、他の美術館や博物館、個人蔵の作品や資料を加え、明治期特有の表現が見られる絵画、写真、印刷物、彫刻、工芸などを集結させる。
時代の転換期に、和洋の“化学反応”によって生まれたさまざま表現や、明治美術の新たな一面に触れる機会となる。
展覧会概要
会 期:2023年4月14日(金)~5月31日(水)
会 場:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
開館時間:10:00-18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館30分前まで)
休 館 日:毎週月曜日
観 覧 料:一般1,500(1,300)円、高校・大学生1,200(1,000)円、中学生以下無料
※( )内は前売券および20名以上の団体料金
※上記料金で本展会期中に限りコレクション展も見ることができる
※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳(愛護手帳)、特定医療費受給者証(指定難病)のいずれかを持っている人は、各券種の半額で見ることができる。また、付き添いの人は、各種手帳(「第1種」もしくは「1級」)、または特定医療費受給者証(指定難病)のある場合、1名まで各券種の半額で見ることができる。ローソンチケットほかで購入し、当日会場で各種手帳(ミライロID可)、または特定医療費受給者証(指定難病)を提示する。付き添いの人は申し出る
※学生は当日会場で学生証を提示
見どころ
1. 明治期の魅力的な作品が集結!
明治期の美術品や工芸品を多数所蔵する神奈川県立歴史博物館を中心に、他の美術館や博物館、個人蔵のものを加え、明治期特有の技術や表現が見られる作品約200点を一堂に展示。
2. 初公開!新発見の作品、資料を多数紹介
本展準備中に、明治時代前半に制作された貴重な油彩画や写真、印刷物が新たに見つかった。これまで見過ごされていた資料や事実と合わせて、初公開となる作品、資料にも注目している。
3. 東京・横浜⇔愛知 つながる明治のヒト・モノ・コト
陶磁器、七宝など輸出工芸の生産や流通、新しい技術の伝播や図画教育、それらに関わった人物など、明治時代の東京・横浜・愛知のつながりを紹介。
構成・主なトピックと人物
第一章 伝統技術と新技術
西洋から日本に入ってきた新しい技術を熱心に研究し実践する人々が、幕末から続々と現れた。開港地横浜では、初代五姓田芳柳ら五姓田派が、西洋絵画を疑似的に模した伝統技法と本格的な西洋絵画技法を同時に実践。
このほか、日本の伝統的な絵画技法を習得した画家たちが西洋の絵画技法に取り組んだ例や、名古屋における明治期の洋画受容、そして明治の写真など、模倣から次第に本格化していく絵画や写真のさまざまな実践と普及の様子を紹介する。
五姓田派、油彩技術の習得、軍隊と美術、写真、初代及び二代五姓田芳柳、五姓田義松、山本芳翠、橋本雅邦、 荒木寛畝、中丸精十郎、高橋由一、宮下欽、河野次郎、野崎華年など
第二章 学校と図画教育
西洋の技術や情報の研究は幕末から行われ、江戸幕府の洋学研究機関だった蕃書調所では、川上冬崖や近藤正純らが手探りで洋画を研究した。明治政府も殖産興業政策を念頭に西洋の技術の学習と利用を後押しした。
明治9年に開校した工部美術学校は日本初の官立美術教育機関で、同校彫刻科出身の寺内信一や内藤陽三、小栗令裕は愛知に足跡を残している。
こうした工部美術学校や、明治20年開校の東京美術学校など一部の美術家養成のための専門教育のほか、小学校をはじめとする普通教育での図画教 育、明治の図画教科書など、明治の美術教育の諸相を紹介する。
図画教科書、工部美術学校と愛知、東京美術学校、川上冬崖、近藤正純、小栗令裕、寺内信一、内藤陽三、下 村観山、黒田清輝、久米桂一郎など
第三章 印刷技術と出版
江戸時代から続く木版による印刷物は、明治前期にも盛んに作られた。しかし、大量印刷の点で優れている銅版印刷や石版印刷が入ってきたことで、印刷の主役の座は木版から、これら西洋由来の新しい印刷技術 に移った。
銅版印刷は地図など精緻な表現に用いられ、グラデーション表現に富む石版印刷は明治前期から中期にかけ、印刷業界を席巻した。文字については活版印刷が実用化され、雑誌や書籍、新聞というメデ ィアを世間に急速に浸透させた。
多種多彩な印刷技術と、出版物を通じて発信され、普及していった明治期のイメージの数々を紹介する。
地図、地誌、石版、木版、銅版、美術雑誌、美術図書、貴顕の肖像、岩橋教章、名古屋石版舎など
第四章 博覧会と輸出工芸
開国後、日本のイメージを広く知らしめ、技術発展や啓蒙の場となったのが、国内外で開催された博覧会だった。高い技術力に支えられた陶磁、漆器、七宝など日本の工芸は万国博覧会を通じて海外の評価を得、それに手ごたえを感じた明治政府は、外貨獲得のために輸出工芸の振興を図った。
この機運に乗り、多くの職 人たちが新たな販路を求めて輸出工芸の制作に参入。民間の輸出産業も発展した。ここで意識されたのが、海外に向けた造形、いわゆるデザインだった。
愛知や横浜で生産された輸出陶磁器や七宝、輸出工芸に応用された絵画や図案、大倉孫兵衛による輸出錦絵と森村組の製陶業との関連などから、明治期に日本から海外へ発信された造形や、その背景にあった、陶磁器や七宝生産における愛知と横浜や東京との繋がりや、製陶業を立ち上げた森村組が生産拠点を愛知に集約する道のりを紹介する。
万国博と内国博、図案、輸出陶磁器、寄木細工、横浜・愛知の製陶業、眞葛焼、宮川香山、川本桝吉、川本半 助、七宝、帝室技芸員、森村組、大倉孫兵衛、ノリタケなど
関連イベント
「明治」をめぐるリレートーク
①「『美術』のつくられかた──明治のモノづくりの分岐点」
[講師]角田拓朗(神奈川県立歴史博物館主任学芸員)
[日時]2023年4月15日(土)13:30-15:00
②「菊池容斎と『前賢故実』」
[講師]由良濯(愛知県美術館学芸員)
[日時]2023年5月3日(水・祝)13:30-15:00
③「横浜の輸出工芸 陶磁器・漆器とその周辺」
[講師]鈴木愛乃(神奈川県立歴史博物館学芸員)
[日時]2023年5月7日(日)13:30-15:00
④「近代愛知の視覚開化」
[講師]平瀬礼太(愛知県美術館副館長)
[日時]2023年5月13日(土)13:30-15:00
⑤「新聞付録は面白い!──明治の印刷と美術」
[講師]菅野洋人(郡山市立美術館館長)、平瀬礼太(愛知県美術館副館長)
[日時]2023年5月27日(土)13:30-15:00
[会場]いずれもアートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]各回先着90名
※申込不要・聴講無料、開始時刻に会場に集まる。
明治美術学会・愛知県美術館共催シンポジウム「愛知で考える明治美術」
[日時]2023年4月23日(日)
13:30 開会・主旨説明
13:35-13:50 展覧会概要説明 由良濯(愛知県美術館学芸員)
13:50-14:50 研究発表「写真師宮下欽・守雄 名古屋での活動」中野悠(愛知県美術館学芸員)
15:00-16:30 対談「視覚の何が開かれ、何が閉ざされたのか」木下直之(明治美術学会会長・静岡県立美術館館長)、平瀬礼太(愛知県美術館副館長)
[会場]アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]先着50名
※申込不要・聴講無料、開始時刻に会場に集まる。
スライドトーク(学芸員による展示説明会)
[講師]中野悠(愛知県美術館学芸員)
[日時]2023年4月30日(日)、5月13日(土)各回11:00-11:40
5月19日(金)18:30-19:10
[会場]アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]先着90名
※申込不要・聴講無料、開始時刻に会場に集まる。