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文谷有佳里展 ギャラリーヴァルール(名古屋)で4月23日まで

ギャラリーヴァルール(名古屋) 2022年3月29日〜4月23日

文谷有佳里

 文谷有佳里さんは1985年、岡山県生まれ。2008年、愛知県立芸術大学音楽学部作曲専攻を卒業後、2010年、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。

 各地で個展を開催。鋭敏な感覚で白地に黒い線で描くドローイングで早くから注目され、豊富な発表歴がある。

 「VOCA展2013」「ポジション2012名古屋発現代美術~この場所から見る世界」などに参加。

 近年は、あいちトリエンナーレ2019、瀬戸現代美術展2019にも出品した。2022年1-3月の「愛知県美術館 若手アーティストの購入作品公開の第3弾」でも作品が展示された。

文谷有佳里

 矛盾するようだが、シンプルで同時に複雑な作品である。白地に黒い線だけで描き、豊かな多層的な世界をつくっている。

 思いつく言葉としては、浮遊、未来、サイバースペース、そして、建築、設計図、ダンス、音楽、軌跡…。

 作品は、即興的、パフォーマティブな感覚と、緻密に組み立てられた構成的な要素が共存した独特のテイストである。そして、よく見ると、線は思いのほか多様である。

 シャープな直線、曲線、屈曲した線、太い線、繊細な線…。微細な図形となって現れる線や、あるいは離れていながら別の線と関係を結ぶように引かれた線もある。

文谷有佳里

 ある線の集合からなる次元と、それとは異なる線の集合である別の次元が同時に同じ空間に現れている。一部は、カーボンを使って、ぼかしのような効果を出している。

 あいちトリエンナーレで展示室のガラス面に描いたように空間に働きかけるインスタレーションを試みることもある。

2022 Gallery Valeur

 具体的な対象物を描いているわけではない。線だけでダンスのように刹那に手を動かして、その連続がたぐいまれなイメージを表出させている。

 自由を感じる線である。この自由は放縦というより、仏教でいう自由、すなわち、自分の中にあるものにって手を動かしているという感じに近い。自分の理に基づいて線を引いている。 

文谷有佳里

 前述したとおり、白地に異次元が交差するような多様な黒線が駆使されることで、豊かな空間性が生まれる。

 交差する線の速度感、浮遊感、時間性とともに、それが止まったような構築性、静寂を生み出している。 

 疾走するような即興性によって描きながら、それがこうしたスタイル、構造、全体性をもっているのは、研ぎ澄まされた感覚、集中力がないと生成されないはずである。

 モジュールのような形式の反復、ダンスや音楽のような一定の規則性をもちながらも、単調にはならず、むしろ波乱の気配を帯びた緊張感と豊かな空間性へと高められている。

文谷有佳里

 同時に、自在でありながら決して気ままなカオスではなく、はかなげでありながら、神経質というわけでもなく、意思と強さが感じられる。無意識を謳いながら引かれたシュルレアリスムの「自動筆記」然とした、線のわざとらしさもない。

  この情報過多の時代に反するように、白地と黒線だけでシンプルに描き、余分なものを排除しながら、こうした多次元感覚の緩みがない空間を作るのは容易でないと思う。

 繊細さと大胆さ、はかなさ、弱さと強さ、軽さと重さ、凝集と拡散、分離と構築、運動と静止、無機性と有機性など、相対する表情を併せ持つ、説明し難い統一感である。

 パフォーマティブな描きから来る流動感、速度感、浮遊感と、建築図面のような構築性、つまり、運動と静止、ムービーとスチルの両義的な世界。

 言い換えると、生々しく、同時に確かな線が、即興的に生成されながら、一定のパースをかたちづくり、それがいくつも立ち現れている。

 それは、決して少なくない線が奇跡のように出合い、精緻に複数の次元、異なる時間軸、複雑な動きを交差させているようである。

 色彩のニュアンスによる表現でなければ、明確な形を指し示すわけでもない《非-色》《非-形》の、微細な粒子の軌跡が交差する多次元な世界である。

文谷有佳里

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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