報道によると、コロンビア出身の画家、彫刻家、フェルナンド・ボテロさんが2023年9月15日、モナコの自宅で死去した。91歳。
1960年代ごろから、ふくよかな人物の絵画を描き始め、彫刻も制作。作風は「ボテリズム(ボテロ主義)」と呼ばれた。
2022年、回顧展「ボテロ展 ふくよかな魔法 BOTERO – MAGIC IN FULL FORM」が東京、名古屋、京都を巡回。ドキュメンタリー映画『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』も上映された。
映画では、幼い頃に父を失った貧しい少年がスケッチを描いていた原点から、ボテリズムに目覚め、1963年、《12歳のモナ・リザ》 の米ニューヨーク近代美術館(MoMA)の展示で一躍注目を浴び、アート界の頂点にのぼりつめた軌跡を紹介している。
また、作品の魅力、作家の素顔を、長年撮影された映像と、本人と家族、キュレーターなどアート関係者の証言を通してたどっている。
一方で、コロンビア出身という出自で差別され、ポップアートや抽象表現主義全盛期に具象画を描く頑なさを批判されたこともあった。
ボテロが「ふくよかさ」や「豊満さ」を意識し始めたのは、イタリア・フィレンツェで美術を学んだ頃だった。イタリア・ルネサンス絵画のエッセンスがカンバスに色濃く反映され、「ふくよかさ」への希求が明確になったのである。
映画では、ボテロが人生の中で追究した「ふくよかさ」が、ボリューム感、官能性、デフォルメ表現など、さまざま角度から掘り下げられている。ボテロは、太った女性などをモチーフに、伝統的な技術を使って制作している。分かりやすさ、楽しさ、色彩の豊かさ、ユーモア、風刺が特徴である。
こうした作風について、映画の中で、ポストモダニズムを代表する米国の美術評論家であるロザリンド・クラウスは「漫画のキャラクター」「人を見下している」と手厳しく批判しているが、それに対しては、寛容性、先住民族芸術の参照など、多面的に分析している。
また、愛息の死、自身の利き手の一部を失う悲劇など、精神的にも肉体的にも作家生命が危ぶまれたこともあった。
自作のみならず、自ら購入した印象派の作品をコロンビアの美術館に寄付するなど、祖国愛をもち、イラク戦争でアブグレイブ刑務所に収容されたイラク人兵士に対して行われた米軍関係者による非人道的取り扱い、拷問を告発する作品を描くなど、人権を尊重するスタンスもあった。