【配給】アルバトロス・フィルム 【提供】ニューセレクト
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90歳の今も創作 名古屋市美術館で今夏に展覧会も
人間も静物もふっくら、ぷっくりと膨らむユーモアあふれる作風で知られるコロンビアの巨匠、フェルナンド・ボテロ(1932年生まれ)の魅力に迫るドキュメンタリー映画『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』が2022年8月19日から9月1日までの2週間、名古屋市東区東桜の名演小劇場で特別上映される。
東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで2022年4月29日~7月3日に開催される「ボテロ展 ふくよかな魔法」が同年7月16日~9月25日、名古屋市美術館に巡回する。映画とともに楽しみたい展覧会である。
ボテロは90歳の今も毎朝アトリエに通い、多幸感あふれる独創的な作品を生み出している。
本作では、幼い頃に父を失った貧しい少年が、闘牛士学校に通いながらスケッチ画を描いていた原点から、対象物をぽってりと誇張する“ボテリズム”に目覚め、1963年、《12歳のモナ・リザ》 の米ニューヨーク近代美術館(MoMA)の展示で一躍注目を浴び、アート界の頂点にのぼりつめた軌跡を紹介。
併せて、作品の魅力、作家の素顔を、長年撮影された映像と、本人と家族、キュレーターなどアート関係者の証言を通してたどる。
一方で、コロンビア出身という出自で差別され、ポップアートや抽象表現主義全盛期に具象画を描く頑なさを批判されたことも。
愛息の死、自身の利き手の一部を失う悲劇など、精神的にも肉体的にも作家生命が危ぶまれた衝撃の過去が明かされる。
ふくよかさの秘密
ボテロが「ふくよかさ」や「豊満さ」を意識し始めたのは、イタリア・フィレンツェで美術を学んだ頃だった。イタリア・ルネサンス絵画のエッセンスがカンバスに色濃く反映され、「ふくよかさ」への希求が明確になったのである。
映画では、ボテロが人生の中で追究した「ふくよかさ」が、ボリューム感、官能性、デフォルメ表現など、さまざま角度から掘り下げられている。
なぜ彼がこれほど世界中で愛される画家となったのか。「ふくよかさ」が鑑賞者に与える意味とは何なのか。
見どころ
筆者が感じたこのドキュメンタリーの魅力は次の3つである。
①ファミリーヒストリー
コロンビアの貧しく、混乱した状況から、世界的なアーティストになった半生。特にそれを支えた家族との強いつながりが丁寧に描写されている。
②美術界からの批判を受け止めている点
単にボテロを賛美するだけでなく、批評家からの厳しい評価をしっかり収録している。
ボテロは、太った女性などをモチーフに、伝統的な技術を使って制作している。分かりやすさ、楽しさ、色彩の豊かさ、ユーモア、風刺が特徴である。
そのため、ネガティブな意見もあり、映画の中で、ポストモダニズムを代表する米国の美術評論家であるロザリンド・クラウスは「漫画のキャラクター」「人を見下している」と手厳しく批判している。
そうした声に対して提示されるボリューム感の官能性、寛容性、先住民族芸術の参照など、分析的な部分は、興味深い。
③ヒューマニストとしてのボテロの生き方
自作のみならず、自ら購入した印象派の作品をコロンビアの美術館に寄付するなど、祖国愛が描かれている。芸術や教育への深い理解も感じられ、共感を呼ぶ場面である。
また、イラク戦争でアブグレイブ刑務所に収容されたイラク人兵士に対して行われた米軍関係者による非人道的取り扱い、拷問を告発する作品を描くなど、人権を尊重するスタンスも、人間としてのボテロの魅力をすくいとっている。
監督・脚本・製作 ドン・ミラー
バンクーバーを拠点とする国際的な映画・テレビ・ディレクター。ビジュアル・アーティスト、そして現代美術ギャラリーの元役員と幅広い分野で活躍している。主な監督作品に、気候変動ドキュメンタリー『OIL SHOCK』(2017)、ラグビースターのハリー・ジョーンズに関する伝記映画『FULL FORCE』(2016)、脚本も手掛けた『OFF THE CLOCK』(2016)など。